恋獄の鎖
「かの社交界の白百合・シェラフィリア様においでいただけるとは、誠に光栄に存知ます」

「お招き下さってありがとう、メイディア伯爵」

「恐れ入ります」

 招待状を出しておいて本当に来るとは思ってはいなかったのかしら。

 しきりに額の汗を手の甲で拭いながら緊張した様子で出迎える伯爵にも、わたくしはあくまでも表面的はたおやかに微笑んでみせる。


 メイディア家は政略結婚を繰り返し、徐々に力を蓄えて来た家だ。爵位こそ伯爵だけれど、誇れるものと言ったら古さばかりで権力を失いつつある下手な高位貴族より、よほど栄華を極めているのではないかしら。

 もちろん我がラドグリス家を脅かすほどではなく、先方も盾突くつもりは毛頭ないようで、それは賢明な判断ね。


 だけど親交は深めたいとの名目でわたくしに夜会の招待状が送られた。

 政略的な場に駆り出されることは好きではないの。だから最初は渋ったのだけれど、結局はお父様とお兄様に言いくるめられてしまった。


 そして案の定と言うべきかしら。

 わたくしにとって何ら魅力も感じられない夜会は退屈なだけの時間だった。

「少し夜風に当たって来ますわ」

 わたくしがそう言えば、下心を見せた令息たちがこぞって供をすると言い出した。今は鬱陶しいだけの申し出をやんわりと微笑で断り、口々に残念がる彼らには目もくれずに場を後にする。

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