恋獄の鎖
「……お気に入りのブレスレットの鎖が切れてしまって」

 当たり前のように、お気に入りでも何でもないものをお気に入りだと嘘をつく。その方が、このつまらない時間が少しでも面白くなると思ったから。


 わたくしがほんの少し感情をのぞかせて頼るだけで、誰もがわたくしの前に傅いた。

 わたくしの力になれることを誇りに思い、持てる能力を最大限に奮って、まるで女王に仕える忠実な騎士のように期待に応えようとするの。


 彼らの行動にも裏の意図があることくらいわたくしも分かっていてよ。ラドグリス家の後ろ盾、あるいはわたくし自身を求めていることを隠しもしない。

 頼ってみせるのも応えてみせるのも純粋な好意からではないのはお互い様だ。だからわたくしは一切の遠慮をすることもなく利用していた。

(そんな彼らに見返りを与えたことなんて、ただの一度もないけれど)

 お父様に何らかの口添えをしたり、ましてや一夜限りの相手をしたりするなどもっての外だ。

 お高く止まった女だと悪評が立つならそれでも良いの。むしろ安っぽい女だと見られることの方がよほど屈辱的だもの。

 でも、そんな強気な態度が功を奏したのか。十八になり少女から女性へと成熟しはじめた頃には、わたくしは社交界で「可憐な白百合」と絶賛される存在になった。


 わたくしに本当に心酔してそう呼ぶ子息もいたし、決して誰にも手折られはしない孤高の存在として扱うことで自らのプライドを保つ子息もいた。

(そして白百合に「毒婦」の暗喩を込める子息だっているわ)

 けれど、誰一人としてそれをわたくしの耳に直接入るよう、表立って堂々と言うことはできやしないの。思うことがあれど結局はラドグリス家を恐れ、陰口を叩くしか能がない。そんな矮小な人間など最もどうでもいい存在よ。

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