毒蝶
5日目
彼女は外に出ることを怖がっていたから、僕は一人で買い物に行く。


彼女が食べたいと言ったものを買って、帰る。


そういった気持ちはないと言い聞かせていたが、こういうことをしていたら、恋人同士のようなことをしている気分になる。


「ただいま」


ドアを開けると、部屋の奥から彼女が小走りで来た。


「……おかえりなさい」


彼女の声はとても小さかった。
でも、これでも出るようになったほうだ。


最初はジェスチャーがほとんどで、会話なんてできなかった。


まあ、男から暴力を振るわれて、同じ男に心を開かないのもわからないこともなかったが。


しかし今では、少しずつ話してくれるようになった。
僕が、彼女を癒すことができているような気がして、嬉しかった。


「フルーツゼリー、買ってきたよ」


まだ靴も脱いでいないのに、僕は袋からゼリーを取り出した。
彼女は柔らかく笑う。


さすがにその笑顔にはときめく。
この笑顔は好きだ、と思った。


「ありがとう」
「これくらいはするよ」


むしろ、これくらいしかできないのだから悲しくなる。


「……いつも、ごめんね……私にしてあげられることがあればいいんだけど……」「気にしなくていいよ。君は外に出られないんだし、これは僕がやりたくてやってることなんだから」
< 2 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop