毒蝶
靴を脱ぎ、キッチンに向かう。
今買ってきたものを冷蔵庫に入れていく。
そのとき、彼女が後ろから抱き着いてきた。
「えっと……」
僕だって男だ。
少し好意を抱いている相手にこういうことをされると、戸惑うし勘違いしてしまう。
でも、堪えろ。
今手を出したら、それを目的に声をかけたと思われてしまう。
そっと彼女の腕を外す。
振り向くと、彼女が落ち込んだ表情を見せた。
「ごめんなさい……あの人は、体でお礼をしろってよく言ってたから……」
まだ、彼女の中には昔の男が住み着いているらしい。
それを聞くと、僕は無性に腹が立った。
そういうことを強制的にやらせていた男にも、その癖で僕に同じことをしようとした彼女にも。
「……僕、そういうのは好きじゃないんだ」
お礼で、なんて嬉しくない。
乙女かと言われるかもしれないが、やっぱり気持ちが通じ合っているほうがいいじゃないか。
だけどはっきり言いすぎたのか、彼女は目に涙を浮かべた。
「ごめん、なさい……」
「いや、あの、怒ってるわけじゃないんだ」
あんな恥ずかしい理由を正直に言うのは嫌だけど、彼女に泣かれるほうが嫌だ。
「その……君が本当に僕とそういうことをしたいって思ったときにしてくれると、嬉しいな、と……」