蛇と桜と朱華色の恋
「砕けろ」
「あっ……!」
氷の剣ではなく鋼の剣を出したにも関わらず、朱華が手にしていた宝剣は粉のようにぽろぽろと解れて消えてしまう。途方に暮れた朱華に未晩がくすりと嗤う。
「愚かな朱華。オレが与えた宝剣だということを忘れていたな? 主に剣を向けるとどうなるか、そんなことも理解できないようなら、お仕置きが必要だな」
絹鼠色の糸はまるで蜘蛛の糸のように朱華にまとわりつき、彼女が抵抗しようともがけばもがくほど締め付けがきつくなっていく。やがて枷をつけられたかのように両手両足の身動きが封じられたのを見て、未晩は満足げに朱華を手元へ抱き寄せた。
朱華はいまにも蜘蛛に捕食されそうな囚われの蝶になったように、震えた声で、拒絶する。
「や……」
「すべての記憶を消して、その器だけを残すことだってできるんだ。だが、オレは人形遊びに興じたいわけではない」
身をよじろうとして痛みに顔を顰める朱華に、未晩が嬉しそうに声をあげる。
「その表情がたまらない。オレによって苦しみ悶える朱華。オレだけが知りえる極限状態の朱華。これで泣いてくれれば完璧なんだがなぁ」
「だ、誰が泣くもんですかっ……ぁあっ!」
きゅっと首元の糸を締めつけられ、朱華がか細い悲鳴を発する。
「まだわかっていないんだな。朱華はそんなに悪い子だったかな?」
未晩の冷たい指先が朱華の青ざめた唇をなぞり、首筋から朝衣の乱れた胸元へと進んでいく。獲物を捕えた獣がいたぶるように、未晩は朱華の繊細な身体をなぞるように、指先で蹂躙していく。薄布越しに感じるおぞましい感触に、朱華は唇を噛みしめ、瞳を閉じて耐えつづける。
「明日にならないと本来のちからを手に入れられないのが惜しいな。いますぐにでもここで朱華をオレのものにしてしまいたいくらいだ」
未晩の腕に抱えられていた朱華は自分の身に迫る危機に顔を蒼白にし、必死になって声をあげる。
「やめ、て」
「最後まではしないよ。けれどすこしくらい楽しんだっていいだろ? どうせ明日にはオレの花嫁になるんだから。そんな顔してもそそられるだけだぜ。もっと苛めたくなる」
そのまま、押し倒され、未晩の口唇が朱華の首筋に触れる。