蛇と桜と朱華色の恋

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 朝陽の来訪とともに朱華が覚醒したとき、耳にしたのは取り乱した未晩の声だった。複数の気配が自分の周囲に漂っている。土地神の強い加護を持った人間が、ひとり、ふたり、さんにん。三人とも真っ白な絹の上衣を纏っている。まるで神官みたいな浄衣。
 朱華が目覚めたのに気づいたのか、燃えるような緋色の髪の少年が「やぁ」と場違いなほど爽やかな笑みを投げかけてくる。なんだか夢のつづきのようだ。
 けれど夢にしては生々しすぎる。朱華の身体は三人の闖入者が放つ神々しい加護の気に触れて熱を帯びはじめている。自分と未晩以外の術者を知らない朱華はまるで古代のカイムの民が現れたかのような状況に、声も発せず震えるばかり。
 土の上に横たわった師匠は何を叫んでいるのだろう。あまりにも甲高い声で、すべてをききとることはできない。ただ、首をひたすら左右に振って、彼らの言葉を拒絶している。あんな風に興奮した彼を見たことなどいままで一度もなかった。
 自分はどうすればいいのだろう。おろおろ見守っているだけでいいのだろうか。そんな困惑しきった表情を悟られたのか、緋色の髪の少年が「大丈夫だよ」と改めて微笑みかけてくる。その隣にいた長身の蒼い髪色の青年も頷き、朱華に柔らかい口調で囁きを零す。

「きみの師匠は鬼に憑かれている。払ってあげるから、安心なさい」

 その言葉で、朱華はようやく我に却った。そしてこの三人の正体にも。

「……桜月夜」

 桜月夜の守人。その名を竜糸に暮らす民のなかで知らない人間はいない。彼らは土地神が張った結界を護る代理神に仕え、この土地に現れる鬼を日々退治するという任務を負った神職者たちだ。外から侵入してくる幽鬼だけでなく、稀に人間の心の闇に巣食う闇鬼にも目を光らせ、他人を害そうとするそのちからを払いに来る、神殿の優れた守人たち……未晩のように数多の神術を扱えても外法遣いと蔑まれることの多い流れの人間とは異なる、選ばれしもの。
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