蛇と桜と朱華色の恋
しかし、三十以上存在していた集落も、激しい幽鬼との争いで気づけば十二にまで減少し、土地神が与えた加護を持つ主要な部族も『雨』、『雪』、そして少数部族の『風』のみとなってしまった。
なぜなら、集落の要である土地神にも、人間同様に寿命というものが存在したから……
幽鬼との戦いで命を落とした神をはじめ、千年近い天寿を全うした神、果ては人間に殺された神までいる。土地神の結界がなければ、幽鬼は人間を容赦なく襲う。その結果、集落は滅ぼされることになる。
幽鬼との戦いに敗れ命を散らした土地神が護っていた集落を、他の集落を護る別の神が統合することもあったが、それは稀なこと、土地神の加護を失った人間の末路は悲惨である。
また、後継者のいない集落も幽鬼によって滅ぼされる運命にあった。いくら土地神が天寿を全うしようが、神が子孫を残さなければ、集落に暮らす人間は生き残れないのである。
それを食い止めるために、どの集落にも方法は異なるものの、土地神のために花嫁を捧げるしきたりが存在している。生贄として土地神が暮らす海や川に沈められることもあれば、神が人間に変化して気に入った娘を神殿で妻に迎えるということもあったという。神嫁の数は定められておらず、土地神と交流できる各集落の選ばれた神職者による至高神のお告げによって決められていく。
つまり、カイムの地に生まれ育った強い加護を持つ少女ならば、神嫁として跡継ぎの土地神をもうける資格があるのである――……