蛇と桜と朱華色の恋

「どう思う?」
「……なんで振るんですかわたしに」

 朱華を襲った巫女を地下牢へ入れたのち、里桜への報告のため颯月とともに訪れた星河だったが、ほとんど言いたいことは言われてしまった。残された星河は里桜の言葉を受けて、硬直している。

「客観的に物事を分析するためにあなたの意見もききたいと思ったのよ」
「そうですか」

 なかば諦めたように星河は笑う。自分より十近く年齢の離れた少女に言われても説得感があるのはやはり選ばれた代理神の半神だからだろうか。

「ですが、わたしがどう思おうが、里桜さまはそのままでいいとお考えでしょう?」

 裏緋寒として神殿に入った朱華には自分の加護に関する記憶が失われていたという。カイムの土地神の加護のことを、逆さ斎の里桜は浅くしか知らない。大樹がいないいま、知識を与える適任者は竜頭が起きていた頃を知る夜澄しかいないのも事実だ。里桜は頷いて、話を変える。

「はぐれ逆さ斎が記憶を改竄したんですって? 至高神に逆らってまで、彼女を自分のモノにしようとしたなんて……」

 それともこれも、至高神が采配を施しているのだろうか。いまここに大樹がいれば真意を問えるのに。里桜は悔しげに口元を歪める。

「その逆さ斎なら、颯月が瘴気を払っております。問題はないかと」
「大ありよ! 代理神が不完全ないま、瘴気を払って放置しただけなんでしょう? ……すでに竜糸の結界は綻んでいる。払っても払っても根本を断たなければ同じことを繰り返す可能性がある……もし、裏緋寒を諦めきれずに彼が自ら闇鬼のために瘴気を取り込んだら?」

 相手は逆井の姓を持たないとはいえ、自分と同じ逆さ斎だ。ひととおりの術式も扱えるに違いない。記憶まで操ることが可能なことを考えると、至高神に預けられたちからを持つ朱華を保護していたという未晩はかなりの術者のようだ。まぁ、それだから裏緋寒の番人として至高神に重宝されたのかもしれないが……
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