本能で恋をする
******木野 亮平side*****

人間は怒りを通り過ぎると、どうなるのだろう―――
家族など大切な人が亡くなると、悲しすぎて涙が出ないとよく聞く。
だったら、怒りもある一定を過ぎると、無になり感情が消える。


だって今、目の前の男には、感情がない。



海斗は音もなく俺達の方に向かってきて、えりぃの上に乗っている俺の胸ぐらを片手で掴み、そのまま勢いよく剥がした。
物凄い力だ。俺はベット上から下へ一瞬で飛ばされた。
ゴンッ―――
「いってぇ………」
そばにあった棚に背中を打ち付けた。




「海、斗……?」
えりぃもあまりの雰囲気に恐る恐る話しかける。
そして、海斗はえりぃを優しく起こし、抱き締め
「凛音。もう大丈夫だよ。ごめんね……来るの遅くなって……」
と、優しく頭を撫でた。そして目線を合わせ、
「凛音。ちょっと待っててね。すぐ終わらせるから、目を瞑って、耳を塞いでて」

「え…?海斗?なにするの?
もう帰ろう?私は大丈夫だから。ほんとだよ。確かに無理矢理襲われそうになったけど、亮くん、ちゃんとやめてくれたんだよ。だから。ね?」
えりぃはきっと今から起こる惨劇のようなものを察したのだろう。必死で海斗を説得しようとしてくれた。

しかし海斗は
「ダメだよ、凛音。“コレ”は境界線を越えたの。ちゃんと罰は受けなきゃ。
凛音をこんな風に震えさせて、泣かせた罰だよ」
あくまでもえりぃには優しい。が、目が完全に据わっている。
「ね。凛音。ほらっ?こうやって、両手を耳に当てて、目を瞑るんだ。
そのまま。そのままだよ」
えりぃの両手をえりぃの耳に当てさせ、瞼を擦り、瞑らせた。
頭を撫でて、こちらに向き直った。

あぁ。これから俺は殺される。
そう確信した――――――。
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