王子と社長と元彼に迫られています!
紬くんは今日も午後から取引先に外出だと言っていた。今日行くのは人気女性インフルエンサーが経営するネイルサロンで、そこのホームページデザインは女性の先輩が担当なのだが、彼女が体調不良の時に紬くんが代理で打ち合わせに行ったところすっかり気に入られてしまい、それから毎回同伴することになったと言う。

『ただの飾りで行ってるだけなんだ。バッグについてるマスコット的にね。僕が動画に出演すると再生回数上がるからって意味もなく出演させられたり、SNS用に写真撮られたりしてさ。時間の無駄だよ。そんなところ行くくらいならオフィスで作業してたいよ。ご機嫌とりして繋ぎ止めなくちゃならないほどうちの会社困ってないはずなのに。』とこぼしていた。

一緒に歩いている女性の気怠い感じの声には聞き覚えがあった。展望室で彼とキスをしていた時、呼びに来た人だ。まるで暁さんを女性にしたような、全身から色気が溢れているような人だ。

なんだかただの先輩後輩にしてはやたら距離が近い気がする。先輩がしきりに紬くんの頬や首、腕などに触れるのを彼が『やめてくださいよ。』と避けるのに彼女はめげずにまた触れようとしている。

そんな二人の様子を見ていて『紬くん大変だなぁ。』とは思ったけれど、優悟とあの清楚な女性を見た時のようなモヤモヤした気持ちが湧きあがることはなかった。

紬くんは私のことを好きと言ってくれていて、私も少なからず彼に惹かれているのにそれはなぜか。その理由に気づくのはこの日の夜のことだった。
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