王子と社長と元彼に迫られています!
「急に会いに来ても職場に来ても別にいいんだけど、ああいうのはやめてもらえると嬉しいな。」

昨日ロビーの真ん中で私を抱きしめてきたのは、階段で別れたばかりの暁さんでも、紬くんでも、はたまた優悟でも、もちろん涼華さんでもなく、弟の智樹(ともき)だった。紬くんと同じ22歳で近くのホテルでホテルマンをしている。昨日は休みだったらしい。数年間の海外留学ですっかり欧米に染まり、ボディタッチが多めだった。

「ごめん。久しぶりに姉ちゃんに会えて嬉しくてさ。」

弟はえへへ、という感じで可愛らしく笑った。髪は短めで爽やかな雰囲気だ。王子ではなく従順な従者という感じだがどこか紬くんと似ている・・・というか同じバンドが好きということに加えて、紬くんの雰囲気が弟に似ているから、すぐに心を開けたのかもしれない、とナンをカレーにディップしながら気がついた。弟が好きなアジア料理のお店で彼はマトンカレー、私は日替わりのオクラとカボチャが入ったチキンカレーを頼みシェアしていた。

「何か話があるんでしょう?あ、ついに彼女と結婚?」

智樹には留学先で出逢った彼女がいた。

「残念ながらはずれ。もしそうなったらすぐ姉ちゃんに教えるよ・・・今日は、姉ちゃんのことで。」

「私のこと・・・って何?」

「優悟くんから頼まれたんだ。」

予想外のタイミングで耳に入ってきたその名前に胸がずきん、と痛んだ。
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