王子と社長と元彼に迫られています!
優悟と友野さんの前にある蓋つきの紙カップからはティーバッグの紐が出ているので二人とも紅茶を注文したのだとわかった。私が頼んだのはホットコーヒーだ。ティーバッグを取り出した友野さんが『今日はお疲れ様でした。乾杯。』と言って手に持ったカップをテーブルの中央に近づけたので、私も自分のカップを彼女のカップに近づける。すると向こうからカップを軽く触れさせてきた。

優悟は自分の胸の前でカップを持ち押し黙ったままだった。友野さんが手を伸ばしてそんな彼のカップに自分のカップを触れさせた。私はどうしようと思ったが彼女みたいに手が長くないし、自分の立場的にやらない方がいい気がして、すぐにコーヒーを一口飲んだ。

「千咲大丈夫?猫舌だから、いつも少し冷ましてから飲んでるのに。」

優悟が急に口を開いたことと、『飲んでた』ではなく『飲んでる』と現在形であることに戸惑う。友野さんの方を伺うとその点を特段気にしている様子はなく『大丈夫ですか?』と聞いてきてくれた。

「だ、大丈夫です。」

「よかった。」

友野さんのその言葉の後は沈黙が訪れ、皆ドリンクをすすっていた。今日のイベントの話でもしようかと思った時、沈黙を破ったのは優悟だった。

「打ち上げをしたかった訳じゃないんだろ。」

彼は友野さんの方をじっと見て言った。その固い口調がますます私の緊張感を(あお)った。

「はい。このまま打ち上げして解散するのもいいかななんて思いもちょっとありましたけど・・・やっぱり私、隠し事するのが嫌いなので。」

「言いたいことは大体わかる。俺も千咲に言おうと思ってたから俺が言う。」

「いえ、私に言わせてください。鈴丘さんごめんなさい。直球で言いますね。」

友野さんが優悟から私に視線を移した。先程まで優しさが溢れていた瞳に強い想いがこもったのがわかった。

「私は入社してからずっと瀬良さんのことが好きでした。」
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