王子と社長と元彼に迫られています!
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───え?何ここ?狭すぎない?

家の近くには小さな商店街があるのだがカフェなどなく、21時半過ぎ(この時間)まで営業しているのは小さな居酒屋かカラオケボックスくらいだった。

食事はライブ前にそれぞれで済ませていたのでカラオケに入ったのだが、チェーンではなく個人でやっているそのお店の個室は防音もほぼされていないであろう普通のドアだったし、壁に備え付けられた棚には古い漫画が置いてあり、自宅の部屋を細かく分けた、みたいなかなりアットホームな感じだった。

そして何より狭い。ギリギリ二人がけなソファの目の前にはテーブル、その前には通路もなくカラオケの機械。今時、ネットカフェの一人用ブースでももうちょっと広いかも、というくらいだ。

相手が紬くんとはいえ結構気まずい。私が突っ立っていると彼はなんてことないように『奥どうぞ。』と言ってくれた。


ドリンクを飲みながら家から持ってきたパソコンを見てもらうとやはり再起不能みたいだった。

「今度うちに来てよ。データはすぐ移せるから。」

「ありがとう。紬くんには助けてもらってばっかりだよね。」

「・・・助けてもらってるのは僕の方だよ。」

「え?私なんにも・・・。」

そう言って紬くんの方を見ると彼もこちらを向いていた───距離が近い。恋人以外の男性とこんな距離に位置することなんてないだろう。しかもこんな、まるで漫画から出てきたみたいに綺麗な人と───。

「・・・あ、ここで歌うのはちょっとアレだけど、飲みもの飲み終わるまで曲でもかけておく?PVとかあるのかな?あ、意外に曲は新しいの入ってるみたいだよ。」

焦って前に向き直り歌本をパラパラめくっていると、その手を優しく掴まれた。驚いて再び紬くんの方を見た瞬間、唇が塞がれた。
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