王子と社長と元彼に迫られています!
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「あ~、すっごく楽しかった!」

「・・・そうか、それはよかった。」

宿泊先のビジネスホテルまでタクシーで向かう。上機嫌な私とは正反対に暁さんはぐったりと疲れきっていた。


助手席のシートを倒されコートのボタンを外して左右にバッと開くと暁さんは私の体を上から下まで見た。そして『これじゃ駄目だな。』と言われたので、『色気なくてすみません。』と返すと『そうじゃない。ここで待ってろ。衣装(ヽヽ)を買ってくる。』と言ってシートを再び起こし、私を車内に残したままいなくなってしまった。車が停まっていたのはディスカウントショップの駐車場だった。

新幹線で名古屋に着き、着替えるように言われたのは、パーティーグッズコーナーで売っているようなお姫様みたいなドレス(ティアラ付き)と、何故か下駄だった。

訳がわからなかったが『時間がないから早くしろ。ぐずぐずしてると俺が着替えさせる。』と言われたので、トイレで急いで着替え、タクシーで先方の会社に向かった。

紫色でギザギザとした形の斬新なデザインのビルに会社を構える女性社長は、長い黒髪を一つに引っ詰めていてキッとした一重の目を持つ美人だった。年齢は不詳である。彼女は小豆色のジャージズボンに紫色の着物を羽織る、という奇抜なファッションをしていて、ああこれに合わせたのかと納得した。

『いつもの秘書が来られずにすみません。今日は臨時の秘書で。』そう私を紹介する暁さんには目もくれず、社長は『ふ~む・・・。』と言いながら私に近づき全身を眺め、あろうことか匂いをかいできた。
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