王子と社長と元彼に迫られています!
頭からかけられたワインが(しずく)となってポタポタと落ち、お気に入りのベージュのワンピースをドット模様に染めていく。

「あら、よかったじゃない。このワイン高いのよ。ビンボーくさいあなたもワインのお陰で少しは価値上がったんじゃない?」

「そうよ、あなた派遣でしょ?ボーナスも出ないし、会社に働きに行くための交通費を自分で払うとか有り得ないわよね~。」

「ほんと、ほんと。カフェテリアでも派遣で集まってしみったれた話してるわよね。どこのスーパーが安いだとか。」

ブランドものの服やアクセサリー、バッグで固め、揃ってむせかえるような甘ったるい香水の匂いをプンプンさせているケバい3人組はくすくすと笑った。こんなに臭かったらワインの香りなんてわからないんじゃないだろうか。

「・・・言っときますけど。」

ワインで濡れた髪をかき上げて彼女達を全力で睨み付けた。

「私達は派遣ですけど、ちゃんと自分の仕事に誇りを持ってます。そりゃ、正社員に戻れたらいいなって気持ちはあるけど、派遣だからって馬鹿にされる筋合いはないです。皆それぞれ事情がある中、今の自分に合った働き方で生き生きと働いてるんです。」

「はぁ!?『誇り』ですって?『埃』の間違いでしょ?ダストの方の。」

リーダー格の、耳が垂れ下がるくらい大きなピアスをつけた女が言うと、腰巾着的な毛虫みたいなバサバサまつ毛の女と魔女みたいに長い爪の女が『うまい!』『座布団一枚!』とはやし立てた。

「しかもあなた、webデザイナーの若い子にも手を出してるんでしょ。」

リーダー女の言葉に腰巾着達が『遊び人!』『男たらし!』・・・それから放送禁止になりそうな下品な言葉で加勢した。

「まだまだビンボーくささが消えないからもっとワインかけて差し上げるわよ。有り難いと思いなさい。」

「ワインは人にかけるものじゃなくて飲むものです。たくさんの手間をかけて作られていて・・・。」

「ごちゃごちゃうるさい!」

リーダー女が私の頭上にワイングラスを振りかざした瞬間、私は厚い胸板に包まれた。次の瞬間、私の唇は熱い唇で塞がれ、3人の女達のこの世の終わりかと思うくらい悲痛な叫び声が個室内に響いた。
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