受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
「訓練学校を卒業してから接点はなかったはずだが……」

「本当にそうなのかな?」

 アーリャの言葉は、含みがある。
 優しそうな顔をしていても、アーリャも王子。その腹に何を抱えているかわかったものではない。

「さぁ、もう行きたまえ。王子の執務室で休憩する暇なんて、なくなっただろう?」

 犬でも追い払うかのようにシッシッと手を振られ、ジョージはムッとした。
 行儀が悪いと注意しようかとも思ったが、それよりもレーヴのことが気にかかった。

 アーリャはジョージよりもエカチェリーナを大事にしている。それは婚約を打診したことで明らかだ。
 だが、ジョージのことも、学生時代からの先輩としてそれなりに大事に思ってくれている。こうして忠告してくれたのは、せめてもの恩返しといったところだろうか。

 王子へ一礼して執務室を退室したジョージは、王宮の高い天井にカツカツと軍靴の足音を響かせて走り出した。
 王宮内で走るなど、らしくない。だけど気にならないくらい、彼の頭の中はレーヴのことでいっぱいだった。
< 199 / 323 >

この作品をシェア

pagetop