受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
(あぁ、おねぇでなければ……!)

 残念である。彼がおねぇでなければ、ものすごくモテただろう。強い者に憧れるお国柄、筋肉隆々の男性は人気がある。
 チュンチュンと騒がしい朝の小鳥のようにさえずる王都の乙女たちがこの肉体美をうわさしないのは、上層部がこの男の存在を巧妙に隠し通しているからだ、とレーヴは悟った。

(こういう時は、見ないフリよ)

 そうだ、見ていない。ムチムチの大胸筋も、上腕二頭筋や上腕三頭筋も、見ていない。
 総司令官補佐のおねぇ口調も、レーヴは聞いていない。そういうことにする。

 プルプルと体を震わせるレーヴを見て、補佐官の隣に座る女性秘書官は彼女に憐みの視線を向けた。
 その顔には「わかるわ」と書いてあるようだ。
< 216 / 323 >

この作品をシェア

pagetop