受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
「どうか、デューク、と」

 膝の上に置かれていたレーヴの手を、デュークが恭しく持ち上げる。
 男性らしい長い指が、彼女の手の甲を優しく撫でた。
 それは何かの合図のようで、レーヴは知らず息を潜める。
 手の甲に押し当てられたやわらかな感触に、彼女の口から微かな息が漏れた。

(騎士に忠誠を誓われたお姫様は、こんな気持ちなの?)

 忘れていたレーヴの乙女心が、息を吹き返したようにきゅんと跳ねる。
 レーヴだって女の子だ。幼い頃は、絵本で読んだ騎士様に憧れたものである。
 しかも、目の前の騎士様は絵本で見たよりずっとずっと綺麗で素敵なのだ。ときめかないわけがない。

 時間にしたらほんのちょっとの間だったと思うが、レーヴにはやけに長く感じた。
 二度と味わえないと思って、今にも溢れ出しそうな羞恥心を押し留めていたせいかもしれない。
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