三度目のファーストキス
「もも、それ何杯目?何飲んでるの?」
「モスコミュール?だっけ?3杯目だよ。」
「ももちゃん、意外に酒イケるんじゃない?顔に全然出てない」

 そうなのかな。ちょっとふわふわして気持ちいけど、まだ全然大丈夫。私って意外とお酒強いのかな。

「だね。店は初めてって言ってたのに、実は家ですごく飲んでたりして?」
「誕生日の時に家族と1回飲んだっきりだよ。お父さんのビール1杯もらったけど、苦くてちょっとしか飲めなかったもん。」

 レン君くんが茶化すように言ってきたけど、ビールの味を思い出して顔をしかめた。

「あはは。ももちゃんはまだおこちゃまだなあ。かわいい、かわいい。」

 また智くんが変な事言いながら頭をなでてきた。

「ちょっと、智くんやめて。その癖よくないよ。」

 智くんを睨みながら頭の上の手をどかしたけど、今度はその手をぎゅっと握ってきた。

「も~、やめてよ」

 智くんの力が強くて手を離せない。

「え?何?ももちゃん嫌なの?」
「別に嫌じゃないけど、そういう問題じゃないでしょ?付き合ってもないのにダメでしょ」
「も~ももちゃん、真面目なんだから。ちょっとくらいいいよ~」

 今日は特に不真面目だ。いつもより、やたらと触ってくる。

 その時。ふいにレンくんの手が触れた。心臓が小さく弾む。

「智さん、やめて。ももが嫌がってる。」

 レンくんが両手で繋がれた私たちの手を離した。真剣な顔で。また心臓が小さく弾んだ。何だろコレ。お酒飲みすぎた?

「はいは~い。わかりましたよ~だ。」

 へらへら笑いながら、またも不真面目そうに言う智くんの腕を思い切り叩いた。

「ホント、全然わかってないよ。智くんに本気に好きな人で来た時に信じてもらえないよ?」
「私も軽い人嫌です。」
「ほらほら、柚葉ちゃんも言ってるんだからやめてくださいよ。」
「わかりましたよ~。ももちゃんだけにするよ。へへ。」

 全く反省せずに私のほっぺをつんつんしてくる。諒太くんなんか興味なさげに違う方向見てひとりで飲んでるし。レンくんは...ひっ

「レンくん、すごい怒ってるじゃん!智くん、チャラいのすぐやめないとだめだよ。」
「彼はそういう意味じゃないと思うけどなぁ…」
「え?」

 智くんがにやにやつぶやいたけどよく聞こえなかった。

「あ。柚葉ちゃん、まつ毛ついてるよ。」

 柚葉ちゃんの目を指さした智くん。

「え?どこ?蓮也、見て?」

 近距離で見つめあう美男美女カップルを前に、何とも言えない気持ちに。仕方ない事なのにこんな気分になってる自分が嫌になる。

「アレ?とれない…あ。目に入った?」
「え?嘘?ちょっと...」

 焦る二人に急いでカバンの中からポーチを取り出し、手鏡を渡した。

「ももちゃん、ありがとう。とれた。」
「よかった。」

 その瞬間、柚葉ちゃんの顔が固まった。

「…それ...」
「ん?」

 指さした先は私のポーチにあるキーホルダーのマスコット。

「…こけねこ!それまだ持ってたんだ...」

 目を開いてつぶやいたレンくんが見せてくれたのはウエストポーチ。そのチャックの所に同じこけねこが。

「あ。」

 驚いてつぶやく私に、レンくんが太陽みたいに暖かい笑顔で微笑んだ。
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