三度目のファーストキス
「お。電車来た。今日も人多いな…」

 レンくんが苦笑いする。

「おいで、もも」

 レンくんが私の肩を優しく抱いて車両の中に入って行く。車両の中には多くの人。人。後ろにも多くの人。人。無理やり入らないと乗れない。レンくんが私を守るように背中で人を押しながら先に入ってくれた。授業が1限からの日は通勤ラッシュと被るからすごく人が多い。

「しっかり掴んでてな」
「ありがとう」

 ぎゅっとレンくんの服を掴んだ。レンくんは片手で上の荷物置きの所を掴んでいる。背が高い彼がうらやましい。

「わっ。」

 電車が動き出し、背の低い私はふらついてしまった。

「ちょ。もも、こっち。ちゃんとつかまってて」
「あ、ありがとう。いつも、ごめんね。」

 片手でぐっと抱き締められて、真上にあるレンくんの顔を見上げた。

「だ、大丈夫。」

 レンくんはそう言ったきり上を向いてしまった。さすがにこの人数でゆっくり話すことはできない。上を向いていた方が空気もきれいかもね。私たちは黙ったまま人が少なくなるのを揺られながら待った。

 背の低い私は満員電車の中で持つところもなくて毎日大変だった。それを見かねて最近はレンくんが私の柱代わりをしてくれる。昔から変わらない優しいレンくん。本当にありがたい。

「ふぅ。やっと空いたね。」
「そうだな。あそこ座ろう」

 大学の最寄り駅に着くまで途中で乗り換えられる大きな駅があるため、そこで人がたくさん降りる。そこから座れることが多いのだ。一緒に席に座り、たわいもないおしゃべりをする。毎日憂鬱だった通学時間がレンくんのお陰でちょっと楽しい時間となった。
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