三度目のファーストキス
 とも庵を出て携帯を開くとメッセージが届いていた。

 【もも~?勉強会終わったかな?お疲れ。金曜日、ももの服選びに行こうって諒太と柚葉がはりきってるんだけど(笑)行ける?】

 絵文字もスタンプも全くないシンプルなメッセージに思わず笑みがこぼれた。明るいレンくんの雰囲気と違ってメッセージはそっけなく感じるほど飾り気がない。意外だけどレンくんらしいっていうか。

 【終わったよ♪すっごく楽しかった。服選んでくれるの本当に行くんだね。】
 【早く返事来ないかすごく待ってたけど】

 すぐ返事が来た。今日はレンくんもバイトがないみたい。

 【グループメッセージの方見てみて】

 そのメッセージにいつの間にか作られてたグループメッセージを開いた。

 【金曜、ももちゃんのバイト終わったら服見に行こう♡】

 柚葉ちゃんのかわいい絵文字を使ったメッセージが入っていた。その下にはOKのスタンプが諒太くんから。【いいよ】と文字のみのレンくん。

 【軽く食べ歩きしながら服見て、後でお酒飲みに行こう♪】

 下にスクロールすると「お酒」という言葉に止まってしまった。お酒かあ。う~ん。みんなとお酒飲むのは楽しそうだけど…。

 【オッケー】とレンくん。その下に大喜びのスタンプの諒太くん。ぷっ。何その喜びよう。普段の二人を見るとその返事のテンションは逆の様だなぁ。

 そうだ。諒太くんみたいにノンアルカクテルやジュースにすればいいんだ。それなら安心。

 私はあまり友達が多い方じゃないけれど、レンくんと再会して友達が一気に増えた。ふふふっ。小学校の時みたい。レンくんの周りはいつも友達が多くて、いつのまにかその友達もみんな仲良くなっちゃうんだ。

    ~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 急に着信音が。

『あ、もも。なかなか返事ないから電話しちゃった。今、大丈夫?』
「ごめん...ちょっとぼーっつとしちゃった。」

 レンくんからの電話だった。レンくんの低いけど優しい声がなんだか電話越しだとちょっとドキっとする。昔と変わらないレンくんだけどふと男っぽいところを感じる時がある。その度になんだか落ち着かなくなってしまう。

『疲れてるの?』
「ううん?大丈夫。レンくんのお陰で柚葉ちゃんや諒太くんと知り合って、二人が仲良くしてくれて嬉しいなあって考えてたの。相変わらずレンくんはすごいねぇ。」
『えっ。あはは。何言ってるんだよ。ももだからだろ。』

 レンくんが照れてる。かわいい。レンくんは男女共すごく人気あるのに全然調子に乗ってないのがすごいなあって思う。

「へへっ。何か嬉しいな。すごく楽しい。」
『え?どうした?』
「レンくんとこうやって電話したり、今度は遊びにいくでしょ。うれしいなぁって。」

 また再び仲良くできるのがすごく嬉しい。胸がきゅっとなるくらい嬉しい。

『………』
「ん?レンくん?」

 レンくんが急に静かになった。

『…あぁ...ごめん、ごめん。俺もももと仲良くなれて嬉しい。…うん…それで...金曜のことだけど』
「うん!大丈夫だよ。ありがとう。」
『A駅に何時に来れる?』
「う~ん。7時なら行けると思うよ。グループの方に返事しとくね」
『よろしくな。』
「楽しみ。二人はどんな服選んでくれるんだろ。」
『期待していいと思うよ。そういえば、今日勉強会どうだった?』

 家に着き、ベッドに横になる。

 とも庵での勉強会のこと。レンくんのバイトのこと。学校のこと。いろいろと話した。レンくんはカフェでバイトしているんだけど、何がおいしいとか、面倒くさい店長の話とか、変なお客さんの話とか。レンくんの話は面白い。制服は白いシャツに黒い腰エプロンしてるんだって。絶対似合うし!ふふっ。今度見に行かないと。将来は薬剤師になりたいから薬学部に通ってるとか。頭のいいレンくんには適任だね。

「ももー!ごはんだよ。」
「あっ。はーい!」

 お母さんの呼ぶ声が聞こえた。

『あ、ごはんか。ごめん、長電話しちゃったな。』
「すごい!もうこんな時間。楽しくて全然気づかなかった。」
『...くっ。俺も。楽しかった。じゃ、また金曜に。あ、その前に学校だな。また明日。』
「うん、ごめんね。また明日。」

 バイバイと言って電話を切った。ごろんと寝返りをうってほうっと息を吐いた。ホント、レンくんと話してると時間が過ぎるのも早い。「また明日」だなんて言えるのが幸せだ。電話の内容を反芻しているとレンくんの声が耳元にまだ残っているのように感じた。低くて優しい声。胸がきゅっとした。

「ももー?早くおいで。」
「はーい!ごめん!」

 再びお母さんが呼ぶ声がして走って階段を降りて行った。


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