三度目のファーストキス
 ♪♪♪♪♪♪

 あ。電話。智くんだ。

「ももちゃん、元気~?ひさしぶり」
「あは。さっき会ったばっかでしょ。ふふっ」
「何かさ~もうももちゃんに会いたくなってさ。」

 相変わらずの智くんにほっこりする。智くんは女の子に優しい。それが私だけじゃないことはよくわかってる。みんなに優しい。でも、それが辛い時に自分を肯定してくれるようで救われたことが何回もあったな。

「智くん、いつもありがとう。」
「へ?いきなり何?ふふっ。っていうか、ももちゃんいいことあったでしょ。」
「ふぇ?い、いいこと?」

 いきなり言われて驚いちゃったよ。さすがは智くん。そんなに浮かれてるかのように聞こえたかな。私は自分で思ってるより態度に出やすいみたい。

「そ、そんなことないよ~」
「嘘。最近元気なかったけど、今は声が明るいっていうか…」
「……」

 沈黙。え?何で…なんか急に智くんの空気が変わったような。

「…レンクン?」

 小さい低い声で智くんがつぶやいた。

「…っえ?」

 聞いたことないような声にびっくりした。

「レンくんと仲直りしたの?」
「え?あ?う、うん…」

 あれ。普通だ。さっきのは勘違いだったかな。

「よかったね~。二人喧嘩でもしてるのかって心配してたんだよ。」
「うん、ありがとう。」
「…そっか。そっか。うん。よかったね。」

 うん?智くん?

「でも、レンクンにもまいっちゃうよね~。」
「う、うん?」
「レンクンってめっちゃ気分屋でももちゃんも困っちゃうね。」

 気分屋…。智くんの陽気な声にドクンと嫌な音がした。

「だって。小学生の時って急に避けられたんでしょ。で、今回は長く喧嘩して最近やっと仲直り。レンクンの気分でももちゃん振り回されてるね。大丈夫?」
「……」

 智くんの言葉にさっきまで弾んでいた心が急にしぼんでいくのが分かる。

 え。でも、レンくんに避けられてた話智くんにしたっけ?

「…何でレンくんに避けられてたって…?」
「ん?ああ。ももちゃんが言ってたじゃん。大学の授業で小学校時代の友達に会ったって。」
「…あ。そうだっけ…あの時名前出してなかったのに、よくわかったね。」
「あはは。ももちゃんわかりやすいもん。それに、俺はかわいいももちゃんの事なら何でもわかるよん。」
「ははっ…なにそれ…」

 いつもの智くんの軽口に笑ってみせたけど、ひきつっているのが自分でもわかった。

「でも、そう思うと柚葉ちゃんってすごいね。中学の時から付き合ってるんだっけ?そんな気分屋のレンクンとうまくやってけるのは柚葉ちゃんだけだね。ホントあの二人はうらやましいくらいお似合いだね。ね、ももちゃん。」
「う、うん。そうだね。」

 でも、でも…二人は付き合ってないって言ってたよ。智くんが知らないだけなの。

「俺はももちゃんが傷つくのを見るのが辛いよ。今回ももちゃんホントにすごく元気なかったもん。心配だよ。大丈夫?レンくんとはそんなに関わらない方がいいんじゃない?レンくん難しくて深く付き合えなさそう。あ、でも心配しすぎか。あはは。別に付き合うわけでもないし、友達だもんね。友達。友達としてそれなりに付き合って…」

 智くんの言葉に胸がえぐられた。だんだん智くんの声がが聞こえなくなってきた。

 友達…

 そういえば付き合ってって言われなかった。

 私達は友達。

 智くんの話で小学生の頃が思い出された。急に避けられた。すごくすごくつらかった。なんでそうなったのかも全く分からなかった。今でもわからない。

 怖い…

 昔のように仲良くなったのにまたあの頃みたいになったらもう立ち直れないよ。

 私はレンくんが好き。レンくんも好きって言ってくれた。でも、今以上もっと近づいてまた昔のように拒絶されたら…?想像するだけでも胸がズキと痛んだ。

「……ぃっ、おーい、ももちゃん?」
「…え?」
「大丈夫?聞こえてる?」
「…あ。うん。ごめん。ちょっと、疲れたから…また…」
「うん。ゆっくり休んで。おやすみ。」

 何だろ、私。レンくんが私のこと好きだって。調子に乗ってた。今はそうかもしれないけど、いつ心変わりするかわからないのに。怖いよ…

「…ごめんね…ももちゃん…」

 智くんがつぶやく声が私には全く届いていなかった。

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