訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!

 夜が近づくと、そこは恐ろしい場所に変化します。闇の妖精が怖いと、妖精達も隠れてしまい、明かりもなく帰り道も分からず、私たちはたまたま見つけた洞穴で途方に暮れていました。
 森は大変広い土地にあり、大人たちもなかなか寄り付かない場所です。むやみやたらに歩いて妖精王の怒りを買えば、恐ろしいことが起きる、と言われています。

「きっとだれかが私たちを捜索してくれているに決まっているよ。大丈夫。」

 ウィルは冷静に説明してくれますが、私は泣いてばかりいました。

「ひっく…さ、さむいっ…。うぅっ…かえりたい。おとうさま、おかあさま…っ。」

 レオンお兄様は足を捻挫し、立てない状態でその場を動けません。

「悪かったよ、ローズ。頼むから泣き止んでくれよ…。いたたた。」
「私が治癒魔法が使えたら良かったんだが…まだ習得してないんだ…悪い。」
「バーカ。俺が一番悪いのは分かってるよ。とりあえずローズを慰めてやってくれ。」

 そうお兄様に頼まれたウィルは、「覚えたてだけど、火が出せるよ。」と言いました。
 私は寒くて寒くて、火が出せるなんて素敵、早く出してとせがんだのです。

 ウィルの魔力は強く、そのコントロールはかなり難しい、と後で知りました。
 中でも火の魔法は、当時習得したばかり。焚き火を起こす程度なら良かったのですが、ウィルは助けを呼ぼうと空高く上げる火魔法を使おうとしたのです。

 そしてウィルに過剰に近寄ってしまった私と、まだコントロール出来ず出てきた大きな龍のような炎が───。

「ローズ!!!」
「うぅっ!」

 どうしてそうなったのか、一瞬のことで分かりませんでしたが、胸が焼け落ちたのではないかと思うくらいの衝撃とともに痛みが襲ってきました。そこからは激痛で何も覚えていません。

「ウィル!お、落ち着け!水魔法だ!冷たい水をかけろ!」とお兄様の叫び声を聞いた気がします。そこで意識は途絶えました。

 すぐさま水魔法で冷やされましたが、救助が来るまでの間に発熱し、屋敷に治癒魔法の使い手が駆けつけた頃には、もう傷は手遅れになっていました。

< 11 / 100 >

この作品をシェア

pagetop