訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!

 私達を包む光が落ち着くと、そこは見慣れた街並み。王都の大通りに来ていました。
 そして目の前にあるお店が目的地だったようで、ウィルが手を引いてくれます。

 重厚な扉を開くと、老齢の品のいい殿方が、待ち構えていたかのように腰を折りました。
 店の中、というよりはお洒落な応接室といった雰囲気です。

「公爵様、お待ちしておりました。」
「…例のものを。…婚約者のローズだ。」

 ウィルが私を婚約者として紹介したことに驚きつつ名乗ります。

「ろ、ローズ・アークライトと申します。」

「お初にお目にかかります。私は公爵家の方々と古くからお付き合いさせていただいております、ロバートと申します。この度はご婚約おめでとうございます。」

 ロバートさんは丁寧に私にご挨拶してくださいました。

「あ、あの、ありがとうございます。」
「ほっほっほ。可愛らしいお方ですなぁ。公爵様がついにご婚約と聞いて、私は本当に嬉しく思います。」

 ロバートさんは店内の奥にある個室に案内してくださり、お茶を振舞うと、ここで待つよう指示され席を外しました。
 そこで初めて、私は今日の目的が何なのかウィルに聞いてみることにしました。

「…あの…ここは?」
「公爵家が懇意にしている宝石商だ。婚約するのだから、契約用の魔法石が必要だろう?」
「え…あの、でも…」

 この婚約は胸を見たら解消するんじゃないんですか…?

 でも、そんな鬼畜な婚約破棄計画を店内で披露するわけにもいかず、私はうろたえながらも黙って座っていることしかできません。

 我がハレック王国の婚約式には、魔法石が必須です。
 金や銀の台座となる指輪と魔法石を用意し、相手の台座に自分の魔力で魔法石を癒着させることで、共に生きるという誓いを立てることとなり、婚約が成立します。

 婚姻は国王に書類を出せば完了するので、この国では婚約式のほうを重要視するカップルも少なくありません。

 私には縁遠い話だと思っていましたので、あまり詳しくはありませんが、名の知れた貴族になると、結婚式も豪華らしいです。
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