訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!
あまり間を開けず、ロバートさんが戻ってきました。
「お待たせいたしました。こちらでいかがでしょうか。」
そこには美しい赤と優しい青のとても煌びやかな宝石が二つ。そしてその宝石を埋め込むのにピッタリな台座がついた、対の指輪がありました。
濃紺のビロードに乗った宝石達は店内の大ぶりなシャンデリアの光を浴びて、眩いばかりの輝きを放っています。
「公爵様の瞳の色、最高級のルビーでございます。こちらは、奥様の瞳に合わせて希少なサファイアをご用意いたしました。」
どうして昨日の今日で瞳の色にピッタリの宝石が用意できたのかしら。ロバートさんは、すごい腕利きの宝石商なのかもしれないですね。流石、公爵家御用達!
「うむ、これをいただこう。台座は?」
「金でございます。こちらは、我が国一の技師が3ヶ月かけて作成いたしました。」
「見事だ。」
3か月?あら、3か月って言いました?
しかもこの台座付きの指輪、小さく薔薇の花が彫ってあるんですが…。
私の名前…なんて考えすぎでしょうか。昨日の今日でちょうどいいものを売っているなんて!
「サイズを魔法で調節させていただきますので、奥様の指に一度はめていただけますか?」
『奥様』という破壊的な言葉に衝撃を受けて固まっていると、ウィルが手を差し伸べてきました。
「ローズ、手を。」
「は、はい!」
ウィルが優しく私の手を取り、するすると薬指に薔薇の装飾がされた指輪が入っていきます。
「ピッタリ…」
「これはこれは。サイズ直しは不要でございますね?」
「はい…。」
指輪のサイズなんて測ったことないのですが、驚くほどピッタリです。もう抜けそうにない程、ジャストサイズなのですが…、これ大丈夫でしょうか。
私達、たぶんすぐに婚約解消するんですけれど…。
「では、奥様も公爵様にはめていただけますか?」
「…っ!!」
大きくて骨ばった男の人の手。お父様やお兄様の手だって、そんなに握ったことはありません。
ダンスの練習も女性の先生だし…。手を握ることすら緊張するような女だと知ったら、ウィルは呆れるかしら。
慌てながら必死に指輪をはめると、それは魔法で調節する必要もなくウィルにピッタリでした。
「ほっほっほ。こちらもピッタリですな。」
穏やかにロバートさんがそう言うと、ウィルは満足気に頷き、「このままいただいていく。代金はあとで公爵家へ請求してくれ。」と言って立ち上がりました。
ウィルは私の手を取り、ロバートさんに挨拶をすると転移魔法で店をあとにしました。
ロバートさんの「末永くお幸せに」というお声が、転移の直前に聴こえてきて、私は少しだけ胸がチクリと痛くなりました。