訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!
 私が行方不明になったことで、父上は必要以上にお怒りになった。
 一方、アークライト伯爵も当然のことながら娘に一生の傷を負わせたと激怒。
伯爵家に行くことは禁止されてしまった。

 母様は娘のように可愛がっていたローズに怪我をさせたことを心に病み、見舞いの品や優秀な治療魔法使いを伯爵家へ次々と送り込んでいた。父様もそれに気づいていただろうが何も言及しなかった。少なからず、息子の失態に対して、罪悪感があったのだろう。

 私は少しの間、謹慎処分となった。
 どんな顔でローズに会えば良いか分からなかったので、少しほっとしたのも事実だ。
 だが一方で、ローズに会いたかった。
会いたくてたまらなかった。

 でも、もう二度と笑いかけてもらえないだろうと絶望していた。次に私に会う時には、恐怖の対象として見られるに違いない。あの美しい花はもう咲かないのだ。

 暫くして、謹慎が解かれ、魔法制御の修業に励んでいた頃。母上から、傷痕は残ったが、傷のせいで発熱し、寝込むことがなくなったと聞いた。
 安堵と同時に、幼いローズにそれ程の苦しみを与えてしまった自分が憎かった。自分を責めて、眠れぬ夜が続いた。

 そんな時だ。ローズが、伯爵家の屋敷を抜け出し荷馬車に紛れ込み、たった一人で公爵邸までやってきたのだ。

 それを聞いて、どんなに嬉しかったか。

「ローズ!!!」

 知らせを聞いて慌てて応接室に入ると、母上とのんびりお茶をしているローズ。
 その姿は以前のままだ。傷は首まである襟付きワンピースで見えない。

「ウィルッ!!!」

 パパパパパパパパパパパッ!
 応接室中に花が咲いた。ローズがたたたっと私に駆け寄る。

「…わぁ、ローズのお花だ。」
「ウィル!私のお熱は下がりました!だからまた、気にせず私のおうちに遊びにきてね!森へは二度と行きません!だからまた私と遊んでほしいの!」

 それを伝えるためにたった1人で…?私が怖くないのか?

「私のお胸の傷は、お花みたいな形なのよ。とっても可愛いの。それに、お花の妖精さんたちが、薬草を沢山くれるから、あっという間にお熱も下がったのよ。もう痛くもありません!ウィルはレオン兄様よりも優しいから、気にしてるんだと思って、直接会いにきましたの!」

 そう言って、私に薔薇を一輪差し出した。
私はその小さな手を両手で優しく包んだ。

「…ありがとう。私のレディ。」

 もう二度と君の笑顔もその美しい花も見られないと思っていたよ。君が会いに来て笑ってくれただけで、私は───。

 そして小さな私の天使を、そっと抱きしめた。
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