訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!
コンコン。
湯浴みを終え、アンナが下がって暫くした頃。ウィルの部屋へと続く扉がノックされました。
「ど、どうぞ」
すると扉が開き、まだ外出着のままのウィルが私の部屋に入ってきました。私は既に寝間着だったので、なんとも恥ずかしいです。昼間のあのドレス姿で会いたかったのですが……。
「お、おかえりなさいませ。」
「……ただいま。」
迷いなく私のもとへ歩いてきたウィルが、そっと私を抱きしめました。
丘の上で嗅いだ香りと同じ、男性の、ウィルの香りがします。
驚きましたが、それよりもやっと会えたことが嬉しくて、私も彼の背中に手をまわしました。
「出迎えられなくてすまない。」
「私こそ、お帰りになる前にこのような格好で……申し訳ありません」
「良い。今後も遅いときは先に寝ていろ。」
今後、という些細な言葉にも嬉しさを覚えてしまいます。今夜、胸の傷痕を見られて、そして終わりになるのではないかと、疑っていましたもので。
「本当は伯爵邸まで迎えに行く予定だったのだ。しかし緊急の呼び出しがあって。」
「お仕事なら仕方がないです。今日は邸の皆さんによくしていただきましたから。」
ぐっと更に引き寄せられて、かなり密着した状態になり、動揺した矢先、ウィルが苦し気な声色で今後の予定を告げました。
「……明日から少しの間、遠征に赴くことになった。」
「え、遠征?」
明日からですか?同居当日からお仕事、翌日から遠征だなんて!王宮のお仕事はお忙しいのですね。
「今朝王宮から連絡があった。南がきな臭い。前々からあった内乱の可能性が高いのだ。鎮静してくる。」
ぎゅうっと力が込められました。まるで何か不安がるように。危険な遠征なのかもしれません。
戦場になれば、ウィルはきっと王宮魔術師として戦いの前線に立つのでしょう。
命の危険があるのかも──。
怖くなり、私も彼に応えるように背中に回した手をきつく結びました。
「……お気をつけて!」
「安心しろ。無傷で帰還する。」
「はい……信じてお待ちしております。」
ウィルの温もりが離れてしまうのが寂しくて、離れがたく、暫くそのまま抱き締めあっていました。
無言の時間が過ぎ、やがてウィルが腕を緩め、はにかんだような表情をしています。
「早速留守にして、すまない。」
「いえ。屋敷の皆様と一緒にお待ちしておりますね。」
寂しさを隠してにっこりそう言うと、ウィルが苦虫を噛み潰したような顔になり、また抱き締められました。
そして勢いよく私を引き剥がし、「寝る前に悪かった。遠征先に着いたら手紙を書く。」と言うと、そのままどこかへ転移してしまいました。
今日はどこで眠るのか、それとも眠れないほど多忙なのか心配になりましたが、追いかけて聞けるわけでもなく、私は待つより他ありません。
ただ、つい先程まで感じていたぬくもりと香りが、まだ残っているような気がして、私はそっと自分の両手を引き寄せたのでした。
湯浴みを終え、アンナが下がって暫くした頃。ウィルの部屋へと続く扉がノックされました。
「ど、どうぞ」
すると扉が開き、まだ外出着のままのウィルが私の部屋に入ってきました。私は既に寝間着だったので、なんとも恥ずかしいです。昼間のあのドレス姿で会いたかったのですが……。
「お、おかえりなさいませ。」
「……ただいま。」
迷いなく私のもとへ歩いてきたウィルが、そっと私を抱きしめました。
丘の上で嗅いだ香りと同じ、男性の、ウィルの香りがします。
驚きましたが、それよりもやっと会えたことが嬉しくて、私も彼の背中に手をまわしました。
「出迎えられなくてすまない。」
「私こそ、お帰りになる前にこのような格好で……申し訳ありません」
「良い。今後も遅いときは先に寝ていろ。」
今後、という些細な言葉にも嬉しさを覚えてしまいます。今夜、胸の傷痕を見られて、そして終わりになるのではないかと、疑っていましたもので。
「本当は伯爵邸まで迎えに行く予定だったのだ。しかし緊急の呼び出しがあって。」
「お仕事なら仕方がないです。今日は邸の皆さんによくしていただきましたから。」
ぐっと更に引き寄せられて、かなり密着した状態になり、動揺した矢先、ウィルが苦し気な声色で今後の予定を告げました。
「……明日から少しの間、遠征に赴くことになった。」
「え、遠征?」
明日からですか?同居当日からお仕事、翌日から遠征だなんて!王宮のお仕事はお忙しいのですね。
「今朝王宮から連絡があった。南がきな臭い。前々からあった内乱の可能性が高いのだ。鎮静してくる。」
ぎゅうっと力が込められました。まるで何か不安がるように。危険な遠征なのかもしれません。
戦場になれば、ウィルはきっと王宮魔術師として戦いの前線に立つのでしょう。
命の危険があるのかも──。
怖くなり、私も彼に応えるように背中に回した手をきつく結びました。
「……お気をつけて!」
「安心しろ。無傷で帰還する。」
「はい……信じてお待ちしております。」
ウィルの温もりが離れてしまうのが寂しくて、離れがたく、暫くそのまま抱き締めあっていました。
無言の時間が過ぎ、やがてウィルが腕を緩め、はにかんだような表情をしています。
「早速留守にして、すまない。」
「いえ。屋敷の皆様と一緒にお待ちしておりますね。」
寂しさを隠してにっこりそう言うと、ウィルが苦虫を噛み潰したような顔になり、また抱き締められました。
そして勢いよく私を引き剥がし、「寝る前に悪かった。遠征先に着いたら手紙を書く。」と言うと、そのままどこかへ転移してしまいました。
今日はどこで眠るのか、それとも眠れないほど多忙なのか心配になりましたが、追いかけて聞けるわけでもなく、私は待つより他ありません。
ただ、つい先程まで感じていたぬくもりと香りが、まだ残っているような気がして、私はそっと自分の両手を引き寄せたのでした。