訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!
 完全に二人きりになり、泣いてしまった気まずさから、私は俯いてしまいました。
 笑顔でお迎えしたかったのに今はこんな顔ですし、ご帰還は明日の夜と思っていたので準備も不足しています。更に、動揺してお部屋を花だらけにしてしまいました。
 婚約破棄される予定とはいえ、公爵夫人となるため、この1か月淑女教育も含め努力してきましたが、やはり私はまだまだ未熟者ですね……。

「ローズ」

 ウィルはどうして私に会いたかったのでしょうか。自分が未熟で、恥ずかしくて、顔が上げられません。

「ローズ?顔をあげてくれ。」

 ウィルが優しく懇願してくださるので、ゆっくりと顔をあげました。彼の綺麗なワインレッドの瞳。濃紺の髪は少しだけ伸びて、魔術師の制服も少し汚れています。わずかに痩せたかもしれません。
 その姿を見るだけで、また涙がじわりと目尻を濡らしました。

「ご無事で何よりです」
「あぁ……。」
「お疲れでしょう。今日はゆっくりと休んでください。今、湯浴みの準備をしてもらいますね。」

 しかし私をウィルが離さないので動けません。思わず再びウィルを見ると、先程よりも熱っぽく私を射るような瞳とぶつかりました。

「私が贈ったドレスだ。なぜこんなに着飾っていた?」
「明日の夜、ご帰還されると伺いましたので、何を着てウィルをお迎えするか、迷ってしまって。お義母様にご意見をうかがっていました……。」
「私のために?あぁ、ローズ。君が可愛くて仕方ない。」
「えええ」

 可愛いと言われて動揺している私を、ウィルはもっと強く抱き締めます。

「もう二度と離れたくない。」

 密着度が高く、心臓の音がウィルに聞こえてしまいそう!泣いていた顔もきっと大変なことになっているでしょうし……!
 しかしウィルは気にも留めていないのか、少しだけ腕を緩めると、ワインレッドの瞳を甘く細めて、顔を近づけてきました。

「キスをしても?」
「ええ!?……あ、あの……」
「だめ?」
「いいえ、だめじゃ……んん!」

 触れるだけのキス。
 ウィルの柔らかな唇が押し当てられ、私の周りに、またしても花が咲き乱れていきます。

(ウィルと、キス、してしまいました……)

 ウィルは、様々に咲いた花を眺めて、笑みをこぼすと、「ローズの魔法は美しいな」と呟きました。
 私の唯一の魔法を、微笑んで肯定してくれる。そのことが嬉しくて、胸がキュッと甘く苦しく疼きます。そうして思わずウィルの身体に回していた手に力を込めてしまいました。
 ウィルはそれに気付くと、嬉しそうに私を見つめ、また唇を重ねます。何度も何度も、触れるだけの、優しいキス。

 そうして私たちは、執事長が呼びに来るまでの間、花が咲き乱れる一室で唇を合わせ抱き締めあっていたのでした。

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