訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!

 今までの懸念事項をすべて晴らすように現れた王女様。治癒魔法の権威に私の傷痕を見ていただけるなんて、滅多にある機会ではありません。恥ずかしい気持ちもありますが、右胸の上部にある傷痕をお見せすることにしました。

 私の傷痕を見るまでは自信に満ちた眼差しでしたが、見た途端難しいお顔に変わりました。

「……古い傷ね。10年以上前のものかしら。魔法による火傷。広範囲で深いわね。よく生き延びたわ」
「はい、幼い頃に負傷しました。訳あってすぐには治療魔法師を呼べず、処置が遅れたと聞いています」
「痛かったでしょうね。よく頑張ったわね」
「ありがたいお言葉です」

 自国の民でもない令嬢を労ってくださる王女様。このご立派な女性に、私はやはり勝てる気はしません。

「それで、貴方はこの傷をどうしたい?」
「……癒せるものなら、消したい、です」
「それで、公爵の前からも消える?」

 王女様の瞳に期待の色が浮かびます。わざとご自分の意思をお顔に載せているのでしょう。数時間前の私ならめげてしまうところですが、ウィルに、想いを告げられた今、勇気を振り絞ります。

「いいえ。キズモノではないただの伯爵令嬢として、彼の、妻になりたい、です」

 恐らく真っ赤になりながらそう言うと、マーガレット殿下はきょとんとした後、豪快に笑い始めました。不敬罪に問われたりします?どうしましょう!

「ふふふっ。面白いわ!……確かに貴女ほどの可愛らしい奥様がいたら国を離れられないわね」

 後半の呟きがよく聞き取れず、聞き返そうとしましたが、殿下がこう続けました。

「残念だけど、この古い傷は深くって完全には消えないわね」
「……そうですか」

 期待した分だけ、少し残念でした。殿下のような流行りのドレスも、襟のない洋服も、着てみたかったみたいです。膨らんだ夢が萎んでいきました。

「消えないけど、できるだけ薄くすることは出来るわ。貴方の名前にちなんで、薔薇の入れ墨のような形に整えてあげる」

 温かい真っ白な光が私を包みます。柔らかな心地よい光。右胸が少し熱くなって、そして光が消えていくと、そこには赤い小さな薔薇が咲いていました。

「まぁ素敵……!ありがとうございます……!!」
「それから、泣いて腫れている眼も治しておいたから」
「重ね重ねありがとうございます!感謝申し上げます」

 傷痕は可愛らしい薔薇の刺青のような形になり、とても嬉しくて思わずまた泣いてしまいそうでした。
アンナが見たらきっと泣くことでしょう。でも腫れた目も治してもらったので、私は必死にこれ以上泣いてしまうのを我慢したのでした。

「お幸せにね。よかったらご夫婦で私の国にもいつかおいでなさいな」
「はい。ぜひ伺わせていただきます」

 美しく聡明な王女様は、「またパーティで会いましょう」と言ってご自分の控室へと戻っていきました。私は、胸にそっと手を当てて、そのお心遣いに感謝していました。
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