嘘と愛

「もういいよ…イリュージュ…」

 イリュージュと呼ばれると、楓はまた息を呑んだ。

「やっと見つけた。…随分と探したよ」

 探していた…どうして? 
 楓は何も言えずギュッと固まってしまった。

「君は冤罪だったんだろう? 今こうして、弁護士として立派になっているのが何よりも証拠だよ」
 
 小さく震えだした楓を、幸喜はギュッ抱きしめた。

 ギュッと抱きしめられると、楓はフワッと暖かさを感じた。
 だが…


 サッと幸喜を突き放した。

 小さく息を呑んで、肩を竦めた楓…・。
 
 幸喜はそんな楓をじっと見つめた…。


「…なんなんでしょうか? 突然…」

 そっと顔を背け、楓は憮然とした態度を向けた。

「誰と勘違いなさっているのですか? …」

 そう言い放つ楓の声が、とでも切なくて。
 幸喜の胸がズキンと痛みを感じた。

「…僕の勘違い? それなら、ずっと一生勘違いをしたままで構わないよ。あの時ぶつかったのは、偶然なんかじゃなかった。必然だったんだ。もう、終わりにしなくちゃいけない。22年もずっと続いてきた過ちを…」

「何のことですか? …私には…判りません…」

「君の携帯電話を間違えて持って帰った日。偶然にも、ディアナから電話がかかって来たよ」
 
 憮然としていた楓が、ちょっとだけ怯んだ…。

 ディアナから電話が?
 電話番号変えたのに、どうやって調べたの?
 まさか探偵でも雇った?

 楓は内心ドキドキしていた。

 そんな楓を見つめて、幸喜はそっと微笑んだ。

「僕はその時は、自分の携帯だと思っていたから何も考えることなく電話に出たんだ。そうしたら、ディアナの声で「イリュージュ」って呼び掛けて来たよ」

 嘘…そんなことが…。
 楓は黙ったまま何も答えなかった。

「ディアナからの内容は、お金を強請っている内容だったから。警察には参考程度に、報告しておいたよ。でもね、その電話を受けて確信したんだ。あのぶつかった時、胸がキュンとなったのは。君がイリュージュだからなんだって。…ずっと…恋しかった…。いくら探しても見つからないし、見つかったと思えば誘拐犯だって現れるし…。そんな事ありえないって、ずっと思っていた」

 ギュッと拳を握りしめた幸喜…。

「あるわけないじゃないか。…桜と椿を産んだのは、イリュージュだって僕は気づいたよ。あの夜に愛し合った時の子供だってすぐに分かった。…でも産まれてすぐに誘拐されてしまって。僕がちゃんと護ってあげられなかったって、ずっと…自分を責めていた…。愛する人が産んでくれた、大切な子供を誘拐されてしまって。…いなくなってしまった事…。自分が死ぬより辛かったから…」

 スッと…幸喜の頬に涙が伝った…。
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