嘘と愛
「この22年忘れたことはなかった。…子供の事も…イリュージュの事も…」
そっと…
分からないように、サングラスの奥から楓は幸喜を見た。
泣いている幸喜…。
ずっと耐えてきた年月が溢れてきたようで…。
その想いは楓にも伝わってきた。
「…桜が生きていたとを知った時は、本当に嬉しかった。…初めて桜に会った時、あの日のイリュージュを見ているようで…。ずっと、閉まっていた想いが溢れてきたよ。…どこにいるの? どうして見つからないの…そう思った…」
ギュッと口元を引き締めた楓…。
「…どうしてなんですか? …貴方はディアナと結婚したのに…どうして? …」
「僕はディアナと籍を入れていない」
「え? 」
「できなかった。本当の自分の気持ちに嘘はつけなかった。…」
「でも…ディアナはずっと、宗田家にいるじゃないですか」
「表向きはそうなっている。でも実際は、ディアナは家にいた事は殆どない。ずっと海外にばかり行ってしまい、子育ても放置している。ずっと、僕と僕の両親で育てて来たよ。ディアナから、取引で結婚してって言われて。曖昧なままそうしたけど、それはディアナの傍にいればイリュージュの情報が受け取りやすいと思ったからで。全く愛なんてなかった。だから、僕はディアナとは一度も関係を持ったことはないよ」
信じられない…。
そう思った楓だが、幸喜の言葉はとても暖かく嘘なんて感じられない。
見つめる視線はとても優しくて…変わらない…。
「疑うなら、戸籍を見せてもいいよ。ディアナは子供が欲しくて、僕に体外受精を提案してきた。それに何となく応じただけだよ。…結局それも、嘘だったようだけどね」
全部違っていたの?
ディアナと結婚して幸喜さんは、幸せに暮らしているのだと思った。
誘拐犯並びに乳児殺害で逮捕される前日…。
ディアナが電話をして来た事を楓は思い出した。
(イリュージュ? あんたってよけいな事をしたのね)
まだ出産後で体力も戻っていないイリュージュは、分からないように病院に入院していた。
(あんた子供に何かしたの? )
そう言われてイリュージュは、昨晩こっそり会いに行って泣いている子供に授乳をした事を思い出した。
「あ…あの…。子供が泣いていたので…」
(はぁ? もうあんたの子供じゃないでしょう? よけいな事をして、助産師に見られたようなのよ! )
「え? …」
(よけいな事をしたあんたには、責任取ってもらうから。覚悟しておいて! )
それだけ言うとディアナは電話を切った。