嘘と愛
「…もしかして、君は変わってしまったの? 22年も、ほっとかれたから…」
幸喜の言葉に楓は、変わっていない…そう言いたかったが。
喉の奥に張り付いてその言葉が声にならなかった。
ゆっくりと、幸喜の近づいてくる足音が聞こえてきて。
楓はギュッと肩を抱いた。
「許してくれる? 僕の事を…」
ふわりと、優しい幸喜の両手が楓の頬を包んだ…。
暖かくて優しい両手は、22年前と変わらない…。
そのぬくもりに、楓の心もスーッと溶かされていった…。
奥深い場所へしまおうとしていた想いが、また込みあがって来るのを感じた…。
「…貴方を恨んだことなんて、私は一度もありません…。貴方がいたから…あの子達を産む事ができましたから…」
観念したかのように俯いて、上ずる声で楓が言った…。
「本当に? こんなに待たせても、許してくれるの? 」
「…許さないなんて、思ったことありません…」
嬉しくて、ギュッと幸喜は楓を抱きしめた。
「…良かった…。君に嫌われたら、僕は生きて行けないよ…」
ギュッと抱きしめた楓は、見かけよりずっと痩せていて。
そんな楓を感じると、幸喜は胸がいっぱいになった…。
「名前を変えていたなんて…ちょっと反則だよ。…」
「ごめんなさい。弁護士として、仕事をするためにどうしても改名したくて…」
「そうだったんだ。…もういいから。…僕が、君を護るから。1人で背負わないで」
楓は胸がいっぱいになり、何も言えなくなってしまった。
ただ涙が溢れてきて…。
幸喜の腕の中が暖かくて…。
ポツ…ポツ…
雨が降り出してきた。
「あ、濡れちゃうよ」
幸喜はそっと、上着を脱いで楓にかけると、手を引いて走り出した。
走ってタクシー乗り場に向かって、そのままタクシーに乗り込んだ幸喜と楓は、そのまま駅に向かった。
タクシーの中で、幸喜も楓も特に会話はしなかった。
ただ幸喜は、楓の手をずっと握っていた。
幸喜の手のぬくもりを感じて、楓は何となく安心していた。
タクシーで駅まで来ると。
また、幸喜はそっと楓の手を握った。
「今日は一緒にいてくれる? 」
楓は黙ったまま何も答えなかった。
何も答えない楓の手を引いて、幸喜は歩き出した。