嘘と愛
 車は零達の傍で止まった。

「零! 」

 止まった車から降りて来たのは大雅だった。

 大雅の顔を見ると、零は安どの表情を浮かべた。
 

 零に駆け寄った大雅は、ギュッと抱きしめた。

「大丈夫か? 零」
「…はい…」

 抱きしめた零がちょっと震えているのを感じ、大雅は包み込むように抱きしめた。


 そんな2人を見て、聖司はちょっと悔しそうに唇を噛んだ。


「楓さん、大丈夫ですか? 」
「私は大丈夫、早く連れて帰ってあげて」
 
「一緒に帰りましょう。送りますから」
「大丈夫よ、私は彼と一緒に帰るから」

 そう言って、楓は聖司に歩み寄って行った。

 聖司は歩み寄って来る楓をじっと見ている。


「もういいでしょう? 気がすんだ? 」

 楓にそう言われると、聖司はそっと視線を落とした。

「さっ、帰りましょう」


 楓に手を引かれて帰ってゆく聖司の姿を、零と大雅は見送っていた。
 
 まるで子供が母親に手を引かれて連れて行かれるような聖司の姿に、ずっと子供の時のまま時が止まっていたのかもしれないとた零は思った。
 零が産まれた時から知っていると聖司は言っていた。
 その時からずっと想っていると…。

 そんなに長い年月思い続けることが出来る聖司の想いも、愛なのだろう…。

 
 遠ざかる楓と聖司を見て、大雅も零を車に乗せて帰って行った。
 
 
 家に戻った零は何も喋ろうとしなかった。
 夕食を食べている時も何も喋ろうとはしないまま、大雅が話しかけると頷くか小さく返事をするくらいだった。

 
 夕食を食べて、そのままお風呂に入った零は胸元に聖司からつけられたキスマークがまだ残っているのを目にすると苦しいくらいの罪悪感を感じずにはいられなかった。
 
 スキを突かれたと言うか、力に押されたと言うか。
 どんな理由があれども、大雅以外の人にこんな事をされるとは…。
 零にとっては重たいショックだった。
 
  
 零がお風呂からでると、入れ替わりに大雅がお風呂に入った。
 
 気の重いままお風呂から出た零は、暫くソファーに座って気持ちを落ち着かせてから寝室へ向かった。
 

 ベッドの横になると、何となく疲れが一度に出てきて眠気に襲われた零はそのまま眠ってしまった。


 入れ代わりにお風呂に入った大雅が寝室に来ることには、零はもうぐっすり眠っていた。
 
 零の寝顔を見てベッドに入った大雅は、直感的に何かあったのだと察していた。
 

 ふと、零のパジャマの胸元から何か赤い跡が見え、大雅はそっとパジャマを託し下げた。
 
 するとそこには、聖司がつけたキスマークがついていた。
 
「あいつ…ここまでやったのか…」
 
 そっとキスマークに触れた大雅は、零が隙を突かれ聖司に無理やり胸元にキスマークをつけられた場面が見えてきて…。
 

 零がずっと黙っていたのはこの事が原因だったのだと、大雅は痛感した。
 
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