嘘と愛
お母さん
 
 楓は零に深く頭を下げた。

 零もつられて頭を下げた。

「初めまして…小賀楓と申します」

 小賀楓と聞くと、なぜか胸がジーンとなり目が潤んできた。
 楓の声にどこか聞き覚えがあった。
 ふわふわと心地よい空間で、優しく聞こえてきた声。


(元気に生まれておいで…。生まれてくるまで、沢山…愛をあげるから…)

 暖かいエネルギーが送られて来ていた。

 
 見ていると判る。
 椿とそっくりな顔。

 
 それになんとなく感じる。
 楓の後ろに幸喜を…。


「…お母さん…」

 零が小さな声で呟いた。
 
 その声が聞こえて、楓の目も潤んできた。

「お母さんって…呼んでくれるの? 私の事」

「…はい。…分かりますから…。声に覚えがあります」
「声? 」

「はい…きっと、お腹の中で聞いていた声だと思います」
「そんな時の声を…」

 零は楓の傍に歩み寄って行った。

「やっと…会えた…」

 涙があふれ、零は言葉に詰まってしまった。

「…ごめんなさいね。…こんなに、遅くなってしまって」
「遅いよ…。椿には会って…なんで私には…会いに来ないの? って…思っていたから…」

 泣きながら答える零を、楓はそっと抱き寄せた。

「ごめんなさい…。ずっと見ていたの…。名乗り出ないつもりでいたのだけど…」
「…会いたかった…」

「ごめんなさい。本当に…。似ているから…」
「え? 」

「貴方が幸喜さんに、そっくりだから。…なかなか歩み寄る事が出来なくて…」

 ギュッと楓にしがみつき、零は泣き出してしまった…。
 楓は何も言わず、零をギュッと抱きしめていた。
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