嘘と愛

 宗田ホールディング。
 幸喜もいつものように仕事をしていた。

 
 コンコン。
 ノックの音に手を止めて、幸喜は顔を上げた。

「父さん、今ちょっといいですか? 」

 大雅の声に、幸喜は席を立ちドアへ向かった。

 ドアを開けると、大雅がちょっと分厚いファイルをもって立っていた。


「どうかしたのか? 」
「いえ、仕事中にすみません。…これを渡したくて」

 分厚いファイルを差し出した大雅。
 そのファイルを見ると、なんとなく重たい空気を幸喜は感じた。

「とりあえず入って、話を聞くよ」

 社長室のソファーに座り、幸喜は大雅に差し出されたファイルを受け取り中を見た。

 ファイルの中には、ディアナが複数の男のホテルへ入ってゆく写真と、意識不明で入院してる時期に深夜に美奈らしき女性と会っている写真もあった。


 そして最近の写真は。
 空港近くのホテルにディアナが入ってゆく写真があった。

(もうすぐ出国するの)

 あの時の電話で、ディアナはそう言っていた。


「すごいな…こんなに良く、調べたね」
「俺が一人で調べたわけじゃないけど、あの人は父さんと結婚してからも、ずっと他の男と浮気していたようだよ。昼間から堂々と、男とホテルに入ってゆくのを目撃している人も多くいるし。俺が養子に来てからも、父さんがいない間に出かけていて。帰って来ると、キツイ石鹸の臭いがしてた事もしょっちゅうだったよ」
「そっか…」

 一息ついて、幸喜はファイルを閉じた。

「父さんは、ずっとあの人と籍を入れないままだったんだよね? 」
「ああ」

「俺、父さんの後ろにずっと綺麗な女の人が見えていたよ」
「綺麗な女の人? 」

「うん。養子に来た時から、ずっと父さんの後ろに綺麗な女の人が見えてたよ。その人は生きている人で、ずっと父さんと繋がっている人だって判ってた。でも驚いたよ父さんの後ろにずっと見えていた女の人に、俺、会ってしまったんだ」
「そうなのか? 」

「ああ、俺が警察官だった時。その人は、とても綺麗で女神のような人だったけど。悪人の味方をしている、弁護士だったよ」
「悪人の味方? 」

「国選弁護人。主に被告人の弁護士だよ。極悪な殺人犯の弁護もする人だよ」
「そっか…」

 大雅は手帳を取り出し、一枚の写真をテーブルの上に置いた。
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