嘘と愛
その写真は楓の写真だった。
黒いジャケットに弁護士のバッジをつけている楓。
幸喜は写真を手に取りじっと見つめた。
「その写真の人だよ、ずっと父さんの後ろに見えていた人。その人は、父さんがずっと愛している人だろう? 」
「…ああ、そうだよ…」
写真を見つめている幸喜の目が潤んでいる…。
「ねぇ父さん。…零の事だけど。…零は、父さんの子供だよね? 」
「…ああ、そうだよ。…」
「やっぱりそうだったんだ。初めて会った時、父さんと似ている感じがして驚いたけど、性格は真逆で。ちょっと不思議な感じがしていたから」
幸喜は小さく笑った。
「僕は、零の事はもうずっと前から知っていたよ。零の父親である、水原隆司さんとも親しくしていたから」
「え? そうだったんだ」
「ああ、きっかけは偶然だったけどね…」
今から18年前。
幸喜は社員が落とし物をしたことで、駅前の交番にやって来た。
当時の駅前の交番には隆司がいた。
ちょっとイカツイ顔をしている警察官で、見かけは怖そうだが対応はとても優しく丁寧で、物腰の低い隆司。
幸喜が書類を書いていると。
「あなた、お弁当持ってきたわよ」
隆司の妻、喜代華が2歳になった零を連れて交番にお弁当持ってきた。
喜代華に抱っこされているまだ小さな零を見て、幸喜は胸がキュンと鳴り息を呑んだ。
まだ小さい零だが、どこか自分と似ていると感じた幸喜。
「可愛いお子さんですね」
幸喜は喜代華に歩み寄って、零の顔を覗き込んだ。
零は小さいながらもじっと、幸喜を見つめていた。
その瞳を見て、零の瞳が緑色であることに幸喜は気づいた。
そして、零の向こう側にイリュージュの姿を見た幸喜。