嘘と愛
「私はお金なんていらない。大金があっても、そこに愛がなければ寂しいだけ。お金で人を操ろうとも思わない。私のお金が欲しくて、姉さんがそこまでの悪事を企ててしまうなら。そんなお金は、必要ないから」
(ふーん。じゃあ、問題なく渡してもらえるわね? )

「ええ、いいわ」
(それじゃあ、明後日。港第二倉庫まで、お金を持って来て。誰にも言わないで、1人出来なさいよ)

「判ったわ」
(安心して。お金さえもらえれば、あんたを殺したりしない。勿論、あんたの本当の娘にも手を出さない。別人になるんだもの。ディアナとしての感情も、部捨ててゆくわ)

「その言葉信じるわ」
(そう、有難う。じゃあ、明後日の8時に港第二倉庫で待っているわ。詳しい場所の地図は、メールで送るわ)

「はい、分かりました」

 電話を切った楓は、一息ついて事務所に入って行った。




 その夜。
 楓は城里家に戻って、瑠璃に住む場所が見つかった事で家を出て行くと話した。

「そう、それでどこに住むの? 」
「金奈市を離れようと思って、少し遠いけど総有市に引っ越す事にしたの」

「仕事は大丈夫なの? 遠くなるんじゃない? 」
「今の事務所は辞めるわ。別の事務所を探すから」

「そう、分かったわ。困ったときは、いつでも私を頼ってきていいからね」
「はい、有難うございます。随分お世話になって、感謝しています」

「お互い様よ、秘密の共有者だもん」

 瑠璃と楓は笑いあった。



 22年前、ディアナから子供を産み渡して欲しいと言われて決めた時から、瑠璃と楓は秘密の共有者。

 楓が釈放されてから、ずっと瑠璃が匿っていたのだ。
 でももう、それも終わりにすることにした楓。





 それから翌日になり、楓は城里家を出て行った。
 荷物はそれほどなく、ちょっとした着替えと和室に置いてあった大きなスーツケースだけ。

 そのまま総有市に向かうふりをして、楓は駅前のシティーホテルに宿泊する事にした。
 事務所は退職して、個人的に国選弁護人の仕事は引き受けることにしている。
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