嘘と愛
最後の嘘は愛
シングルの部屋が満室で、ダブルの部屋を用意してもらった楓。
6階の部屋で街並みが良く見える。
母と一緒に日本に来て、楓はもう30年以上になる。
日本は大好きでずっと住みたいと思っていた。
母が再婚して、ディアナと姉妹になって楓は嬉しかった。
年も同じで誕生日が一日違いという事も、何となく運命的な物を感じていた楓。
初めは仲良しで、どこに行くのも一緒だった。
しかしディアナは、大きくなるにつれて寂しさが増したのか、だんだんと男遊びが激しくなり夜の街をさ迷うようになって行った。
母が注意すると腹いせに楓に嫌がらせをして、大切な服を破り捨てたり、勉強している楓の邪魔をするように男を家に連れ込んで騒いだりしていた。
楓が誰かと交際を始めると、必ずと言っていいほどディアナは邪魔をして来て誘惑して寝取っていた。
そのため楓は、誰とも交際する事を諦め自立するまでは目標にだけ目を向けようと決めた。
しかしディアナは、楓がバイトしてか稼いできたお金も狙うようになり家に置いておくと全部盗られてしまう事から楓は銀行に預け定期預金として引き出しができないようにしていた。
酷いディアナに怒りを感じたことはなかった楓。
ディアナの寂しさはなんとなく分かるような気がして。
怒りを向け法でディアナを裁いても、きっと何も解決しないだろうと楓は思っていたのだ。
窓からの景色を見て、楓は22年前の事から今日までの事を思い出していた。
ディアナの目的はお金。
大金を手にして別人になり自由に暮らしたいと言っていた。
それがディアナの本当の幸せなら、楓は力を貸そうと思っている。
ディアナがしてきたことが許される罪ではない。
だが逮捕されて、それで終わる事でもないと楓は思っていた。
全てディアナに奪われ続けてきた楓。
初めて心から好きになった幸喜は、ディアナと交際していて結婚の約束をしていると言った人だった。
幸喜はそんな約束はしていないと否定していたが、ディアナの性格からして簡単にあきらめる事はないと楓は思っていた。
幸喜と結ばれて、心から素直に好きになってもいいと思えた矢先に、ディアナがわざと幸喜とキスをしているところを見せて楓がいなくなるように仕向けた…。
争いを好まない楓はそのまま姿を消したが、暫くして妊娠が発覚した。
信じられない思いがあったが、幸喜がくれた大切な命を護りたい…授かったこの子を産んであげたいと楓は強く願った。
安定期に入る頃に、病院で偶然にもディアナに会ってしまった楓。
楓の妊娠を知るとディアナは子供を産み渡してほしいと言ってきた。
一人で育てる決意をしていたが、やはり両親が揃った家庭の方が子供は幸せになれるだろうと思いディアナに産み渡すことを決めた楓。
まさか誘拐犯にされ、乳児殺害まで被せられるとは想像もしていなかった…。
無罪になっても世間は冷たく。
姿を隠して生きていた楓。
犯罪者の汚名を着せられ、被告人の気落ちが判るようになり国選弁護人になった。
もう幸喜とは二度と会えない…子供とも会えない…それでいいと思っていたが。
また幸喜と出会い愛し合えるようになり、零と椿にも会うことが出来た。
心のどこかであきらめていない自分がいたのかもしれない…。
夜景を見ながら楓はそんな事を思っていた。
そして、ディアナと約束した日時になった。