嘘と愛

 食事が終わり、店を出ると時刻は21時を回っていた。

「ご馳走になって…すみません…」
「いや、このくらい気にしないでよ。俺が強引に誘ったんだし」


 駅までの道を歩きながら話している大雅と零。


「ねぇ零ちゃん。この前、俺。試しにって言ったんだけど」

 ふと、足を止めて大雅は零に振り向いた。
 大雅に合わせて零も足を止め立ち止った。

 大雅はちょっと真剣な眼差しで、零を見つめている。

「俺、試しにって言ったけど。…真剣に付き合いたいんだ。零ちゃんと」
「な、何を言っているの? …こんな私と、どうして? 」

「好きだから…。それだけだよ、他に理由がいるのか? 」
「理由って…。私なんか…」

 ギュッと唇を噛んで、零は俯いていしまった。


「ねぇ零ちゃん。…俺の事、嫌い? 」
「…いえ、嫌いではありませんが…」
「じゃあ、好き? 」


 好き? って…。
 そんな事聞かれても…。

 零は答えに迷ってしまった。
 そんな零に、大雅はそっと歩み寄った。

「零ちゃん。…もう、いいんだよ。誰かに愛されても…」
「はぁ? 」

「零ちゃんは、幸せになる為に産まれて来たんだ。だから、もう1人で頑張らなくていい」
「…何を言っているんですか? …」


 スーッと大雅の手が伸びてきて。
 ギュッと零を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと…やめて下さい。…」

 右手だけでギュッと、大雅を押しのけようとする零だったが、強い力で抱きしめられていて離れることが出来なかった。


「離さないから、絶対に。俺は…零ちゃんの事を護りたい」
「…何…言っているの…」
「判るよ、ずっと零ちゃんは自分の事を自分で守ってきたこと。すごく傷ついていることも、伝わってくるから…」


 なんなの? この人。
 人の心に入り込んでくるなんて…。

 でも…このぬくもりは何だろう…。
 安心できる…。
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