嘘と愛
翌日のお昼になり、大雅は一度家に戻った。
黙って外泊した大雅に、幸喜は特に理由を聞く事はなかった。
「お兄ちゃん、昨日はどこ行ってたの? 」
椿がニヤニヤとして大雅に話しかけてきた。
「別に、お前に関係ないだろ? 」
シレっと答える大雅に、椿はまたニヤッと笑った。
「お兄ちゃん、彼女でもできたの? なんか、女の人の臭いがするよ」
「あ? 」
うるさいなぁと、ちょっと煙たそうに椿を見て、大雅は自分の部屋に入って行った。
部屋に入ると、必要な荷物を大きめの鞄に詰め始める大雅。
とりあえず必要な分を鞄に入れ終わると、大雅はそのまま部屋を出た。
特に幸喜に声をかけることもなく、大雅は玄関へやって来た。
「あれ? お兄ちゃん、何? その荷物」
大きな荷物を抱えている大雅を見て、椿が声をかけたが、大雅はなにも答えないまま靴を履いた。
「お兄ちゃん? どうしたの? 」
フッと、一息ついて大雅は椿を見た。
「俺、家を出るから」
「え? 何言っているの? どうして? 」
「別に。…お前だって、父さんと2人のほうが良いだろう? 」
「どうゆう事? 何を言い出すの? 」
「俺は…元々、お前とは他人だ。父さんとも他人。…これ以上、他人ばかりの家で暮らすのは、俺も耐えられないんだ」
「ちょっと待って。何で急に、そんなこと言うの? 今まで、仲良くしてきたのにどうして? 」
フイッと視線を反らして、大雅は玄関を開けた。
「必要なときは帰って来る。じゃあな」
大雅はそのまま出て行った。
「お父さん! 大変よ! 」
バタバタと走って、椿は幸喜の部屋に向かった。
部屋で本を読んでいる幸喜は、足音が聞こえて顔を上げた。
「お父さん! 」
椿が血相を変えて入ってきたのを見て、幸喜は目を見開いた。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「大変なの、お兄ちゃんが出て行っちゃったの」
「出て行った? 」
「別で暮らすって言って。荷物持って出て行ったの! 」
「どこに行くのか、聞いたか? 」
「聞いてない! 他人ばかりで暮らしたくないって、そう言っていたよお兄ちゃん」
「判った。大雅には、ちゃんと聞いておくから。ちょっと落ち着きなさい」
幸喜は椿を慰めた。
椿は大雅が急に出て行った事で、ちょっと動揺していた。