嘘と愛
 椿が落ち着いて。

 しばらくして、幸喜は大雅に電話をかけてみた。



 何度かコールを鳴らしても、大雅は出なかった。

 ため息をついて、幸喜は電話を切った。




 リビングの窓から夕陽を見ている幸喜は、悲しげな目をしていた。
 他人ばかりと言われてしまうと、幸喜は何も言い返すことが出来ない。
 大雅は養子で自分とは血が繋がらない…たとえ、何十年一緒にいたとしても血の繋がりだけはどうする事も出来ない。

 それに… …

 夕日を見ていた幸喜が小さくため息をついた。


「大雅…」

 大雅の名前を呟いた幸喜は、ちょっと目を潤ませていた。



 ピピッ…。
 幸喜の携帯が鳴った。

「はい…」

(父さん? 俺だけど)
「大雅? 今どこにいるんだ? 」

(…ごめん父さん…。俺、これ以上は偽物家族ごっこはできない…)
「大雅…何を言い出すんだ? 」

(気づいているんだろう? 父さんも、椿の事)

 ギクッとした目をして、幸喜は息を呑んだ。

(俺は養子だから、ずっと黙っていたが。養子に来た時から、感じていたよ。父さんと椿の間に、親子関係がないって…)

「何をバカなことを…」
(椿が中学生の時怪我したよね? その時、輸血が必要だっただろう? 父さんも母さんも、できなかったじゃないか。他人の俺が輸血に協力したじゃないか。その時確信したよ、椿は父さんと母さんの子供じゃないって…)

「大雅…それは…」
(俺さ、父さんとそっくりな子を知っている)

「え? どうゆう事だ? 」
(教えない。絶対に教えない。…もう二度と、酷い事に巻き込みたくないんだ)

「酷い事って。…」
(そもそもさぁ、父さんが自分に嘘ついているからいけないんだろう? )

 図星を指されて、幸喜は黙ってしまった。

(もういいよ、今更何を言っても変わらない。これからの未来を、見るしかないじゃん。だから俺、家を出る。なんなら、仕事も辞めて構わないから)

「ちょっと待て! そんなことされたら、困るだろう? 」
(…もう俺に構わないでくれ。…父さんが、椿とこれからも親子ごっこしたいなら、止めないし。俺は…自分に嘘は絶対につきたくないから。…じゃあ)
 
 一方的に大雅から電話は切れてしまった。

 幸喜は込みあがって来る思いをぐっとこらえた。
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