嘘と愛
偶然ぶつかっただけの女性を見て、幸喜は何故かイリュージュを思い出した。
何故なんだろう…。
そう思いながら、幸喜はずっと女性の姿が見えなくなるまで見ていた。
女性の姿たが見えなくなり、幸喜が歩いてくると。
ピピッ…携帯電話が鳴った。
カバンから携帯電話を取り出し幸喜は電話に出た。
(久しぶりね…)
聞き覚えがある女性の声に、幸喜は耳を澄ませた。
(ずっと探していたわよ…イリュージュ…)
イリュージュ?
幸喜の顔色が真っ青になった。
(私が誰だかわかるわよね? 約束のお金、随分振り込まれていないけど、どうなってるの? もうすぐ出国するの、今までの分。まとめて送金してくれない? 美奈って女、死んじゃったの。お金が底尽きたのかしら? 最後には、あの事件の事をもう一度証言するって言うから…殺しちゃったわ。…今更ねぇ、あんな昔の事を証言されても困るものね。犯人は、あんたで片付いているし。あんたの代わりに、娘でもない椿を育てているんだから。養育費をもらうのは、当然よ。いい? 三日以内に1000万送金して頂戴。いいわね? )
なんなんだ? この電話は…。
幸喜は耳から携帯電話を離して見つめた。
使っている携帯電話と同じだが…カバーの色がちょっと違う。
優しいピンク系のカバーだった。
電話を切って、プロフィールを見て番号を確認すると幸喜は真っ青になった。
「これは…もしかして、さっきぶつかった時? だとしたら、僕の携帯があの人に? …」
衝撃を受けて、幸喜はちょっと混乱した。
そのままとりあえず、タクシーで家に戻った幸喜。
混乱している頭を冷やすために、先にお風呂に入り幸喜は気持ちを落ち着かせた。
(ずっと探していたわよ、イリュージュ…)
あの声は…ディアナだった。
そしてイリュージュとは、ディアナの妹。
22年前に姿を消した…幸喜が探している人である。
お風呂から出て、幸喜はもう一度携帯電話を手に取った。
どうするべきかを考え、相手も困っているだろうと判断した幸喜は、自宅の固定電話から自分の携帯電話にかける事にした。
ちょっと緊張した面持ちで、幸喜はコールを聞きながら待っていた。