嘘と愛

 何度か鳴らして。
 やはりでないのかと、幸喜が諦めようとした時…。

(はい…)

 女性が電話に出た。
 あのぶつかった時の女性の声だった。


「あの…すみません、先ほど駅前でぶつかってしまった者ですが」
(あっ…はい…)

 ハッとしたような、驚いたような声で返事をした女性の声は、幸喜の胸をキュンとさせた。

「夜分に申し訳ございません。先ほどぶつかった時に、携帯電話をとり間違えてしまったようなのでお電話しました」
(そうだったのですね。私も、今気が付きました。すぐに気が付かず、ごめんなさい)

「そうでしたか、連絡して良かったです。電話、急ぎますか? 」 
(いえ、急を要する電話は入らないと思いますので)


「それでしたら、明日お返ししますので。僕と会ってもらえますか? 」

 幸喜がそう尋ねると、少し女性は黙ってしまった。
 だが…。

(お昼間の時間帯でも宣でしょうか? )

 そう尋ねる女性の声が、少し震えていた…。

 その声を聞いた幸喜は、キュッと胸に痛みを感じた。

「はい、大丈夫です。時間は、どうとでもなりますので」
(有難うございます。それでは、明日の11時に駅前の時計台の前でお待ちしております。宜しいですか? )

「分かりました、11時ですね。…あの、僕の名前は宗田と申します。お名前を、お聞きしてもいいでしょうか? 」
(小賀(おが)と申します…)

「小賀さんですね? 分かりました。では、明日お待ちしておりますので、よろしくお願いします」
(はい…)

 小さく返事をして電話を切った小賀と名乗る女性。
 
 電話を切った後も、幸喜の胸はドキドキと鼓動が高まっていた。
 受け答えがとでも上品で、どこかの貴婦人のようだった。
 答える声は小さめだが、とても澄んだ綺麗な声をしていて…。
 ぶつかった時、夜なのにサングラスをかけていたが。
 その下の素顔はどんな顔をしているのだろう?

(やっみつけたわよ…イリュージュ…)

 ふと、ディアナからの電話を思い出した幸喜。

 間違えた携帯電話にディアナからイリュージュに向けて、かかってきた電話。

 あの電話がもし、幸喜が探しているイリュージュにディアナがかけた電話だとすれば。
 あのサングラスを外してもらえば、きっとハッキリわかるはずだ。

 彼女が探しているイリュージュなのかどうか…。

 鼓動が高鳴る中、幸喜はそんな事を考えていた。





 翌日。

 いつものように幸喜が出勤してくると、副社長室へ向かう大雅に会った。
 おはようと声をかけようとすると、大雅はスッと去って行った。
 
 また避けられた…。
 そう思った幸喜だったが。

「大雅、ちょっと待って」

 去り行く大雅を呼び止めると、背を向けたまま立ち止まった。

 そんな大雅に歩み寄って行った幸喜。
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