嘘と愛
「大雅。元気にしているのか? 」
そう尋ねられ、大雅は背を向けたまま黙っていた。
「…ごめん。僕が悪いのは分かっている。…」
何を今更謝るのか。
大雅はそう思った。
「大雅、お前に本当の事を話しておきたい」
なに? 本当の事って…。
半分呆れたように、背を向けたまま溜息をついた大雅。
「僕はディアナとは、ずっと籍を入れていない」
はぁ?
チラッと振り向いて幸喜を見た大雅。
「お前が言うように、ずっと偽物家族を演じていたよ。椿の事は、お前が言う通りだ。だが、椿には何も罪はないんだ。ディアナが子供を作りたいと言って、体外受精で子供を授かって。無事に産まれたけど、その子は産まれて間もなく誘拐されてしまった。…その誘拐事件が、産まれた子供の人生を大きく変えてしまった。…産まれてきた子供だけじゃなく…僕の大切な人の人生まで狂わせてしまったんだ…」
大切な人…。
そう言った幸喜の声が、とても悲痛で。
大雅はそっと振り向いた。
久しぶりに、まともに幸喜を見た大雅は。
以前に比べて、幸喜の顔がちょっと痩せたように見えた。
だが、目はイキイキしているのを感じた。
「…22年。放置していたわけじゃないが、どうしても見つからない人がいて。その人が、重要な手掛かりを握っているから。あまり、騒ぎ立てる事もしたくなくて。…」
「そんなに長い年月が経っていれば。誰も覚えていないんじゃないの? 」
ボソッと大雅が言った。
「ああ、そうだね。でもね、僕の中ではずっと時が止まっているよ。何も解決していない事だから。そもそも、誘拐事件の犯人が誤認逮捕だから。何も終わってないんだよ」
「誤認逮捕…」
誤認逮捕と聞いて、大雅の目が少し緩んだ。
「大雅。お前、僕に似ている人を知っていると言ったね? 」
「ああ、言ったけど」
「その人って。もしかして、僕が前に調べてほしいって言った人? 」
「え? …」
ちょっと怯んだ目をした大雅を見て、幸喜は小さく微笑んだ。
「僕に似ているって言ってもらえて、嬉しかった。僕が会った時は、僕の大切な人に似ていたから」
「俺にそんな話をして、どうしたいの? 」
「真実をハッキリさせようと思う。それでもし椿が、傷ついたとしても。それ以上に、苦しい思いをしている人がいるから」
「ふーん…」
冷めた返事をした大雅だが、幸喜の気持ちはよく判ったようだ。