嘘と愛
「それがみんなの幸せに繋がるなら、俺は反対しない。…俺も、その事件の事は追っていた一人だから」
「知っていたのか? お前…」
「一応、元警察官だったから。時折り、仲間の間でも話にでていたよ。釈然としない乳児誘拐事件と殺害事件だったとね。…興味本位で、資料を見て俺も気になっていた。それに、俺も養子とは言え宗田家の人間だから気になっても当たり前だろう? 」
「そうだね。…またゆっくりと、話をさせてほしい。仕事前に、悪かったね」
「別に…」
それだけ言うと、大雅は副社長室へ入って行った。
幸喜もそのまま社長室へ向かった。
ちょっとだけ。
幸喜と大雅の距離が、近くなったように感じた…。
約束の時間11時。
幸喜は待ち合わせの時計台にやって来た。
幸喜がやってくると、昨日の女性が立っていた。
黒いスーツ姿に、かかとの低いパンプスを履いて、昨日と同じサングラスをかけていた。
遠目で見ても、とても気品が溢れていて、通り行く人がチラッと振り向いて女性を見ていた。
「お待たせしました」
歩み寄って行った幸喜が声をかけると、女性は丁寧なお辞儀をした。
なんて上品な人なのだろう…。
幸喜は見惚れながらも、胸ポケットから名刺を取り出し女性に渡した。
「これ、僕の名刺です」
差しだされた名刺を、女性は両手で受け取ってくれた。
そして、自分も鞄から名刺を取り出し幸喜に渡した。
名刺には小賀楓(おが・かえで)と名前が書かれていて、駅前の個人事務所の名前が書かれていた。
「小賀楓さん。素敵なお名前ですね」
「いえ…。それよりこれ…」
女性こと楓は、幸喜の携帯電話をそっと差し出した。
「すぐに気づかなくて、ごめんなさい…」
「いえ、大丈夫ですよ。それより、この後お時間はありますか? 是非、お話がしたいのですが」
「申し訳ございません。この後、急ぎの用事があるので」
「では、後日お時間を下さい。僕が時間は合わせますので」
「あ…あの…」
困ったように俯いてしまった楓…。
「すみません。困らせているわけではありません。ただ…貴女に逢いたくて…」
俯いて、ギュッと鞄を握りしめた楓の手が震えているのが目に入った幸喜は、そっと楓の手に手を重ねた。
「安心して下さい。僕は味方ですから」
幸喜の優しい言葉に、楓はそっと顔を上げた。
目と目がうと、幸喜は「大丈夫だから」と、そっと頷いた。