嘘と愛
愛しき人

「こんな私に…会いたいなんて…。勿体ないです…」
「何を言っているのですか? 僕のほうこそ…身の丈もわきまえないで…」
「そんな事ありません…」
「いつでもいいです。連絡を下さい。名刺の裏に、僕の携帯番号を書いておきましたので」

 楓は小さく頷いた。

「これを…お返ししますね…」

 幸喜の携帯電話を差し出した楓。

 幸喜も楓の携帯電話を差し出した。


「…ごめんなさい。今日はこれで失礼しますね…」

 会釈をして去ってゆく楓を、幸喜はそっと見送った。

 後ろ姿もとても上品な楓…。
 見ていると儚げで…護ってあげたくなるくらいで、胸がキュンとなる…。

「…僕も、真実から目をそらさないから…」

 去り行く楓の後姿に、幸喜はそっと呟いた…。




 幸喜は楓と別れた後、そのまま金奈警察署へやって来た。

 それは…。

 昨夜のディアナからと思われる電話の内容を、録音して持ってきたのだ。
 電話に出た幸喜は無意識に、録音ボタンを押したようで通話が録音されていた。
 それをICレコーダーに録音して持ってきたのだ。


 刑事課の男性刑事の沢田圭吾(さわだけいご)が対応した。
 短髪でごっつい感じのイカツイ顔をしている圭吾は、刑事の雰囲気がしっかり身についているようで強面な顔をしている。


 ICレコーダーに録音された声は、確かにディアナの声であった。


「なるほど。それで、この電話がかかってきた携帯電話の持ち主はどなたですか? 」
「小賀楓さんと仰る、弁護士の方です」
「弁護士ですか。それなら、こちら調べればわかります」
「ですが、まだこの事は小賀さんには話していません。なので、まだハッキリするまではそっとしておいて頂けませんか? 」
「そうですか。とりあえず、我々の方も調査中ですので。また何かありましたら、情報をして提供下さい」
「判りました」

 圭吾はフッとため息をついた。

「大変ですね。奥様が行くへ不明だと言うのに、奥様の声でこのような電話がかかるとは」
「…はい…」
「お仕事のほうに、影響が出なければいいのですが」
「ご心配なく。それは大丈夫ですから」
「判りました。では、こちらは参考品として預かります」
「はい、お願いします」


 圭吾と話を終えて、幸喜が警察署から出て来ると。
 ちょうど外から帰ってきた零がやって来た。

 零を見かけた幸喜は立ち止まった。
 零も幸喜に気づいたが、そっと目をそらしてそのまま立ち去ろうとした。
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