嘘と愛
「お兄ちゃんと一緒にいた人ね。お父さんとそっくりな人だったわよ」
ん? と、椿を見た幸喜
椿はそのままプイッとして、その場を去って行った。
椿の棘のある言い方に、幸喜はちょっと引っかかっていた。
その頃。
大雅は、久しぶりに零と一緒に夕食を食べることができとても喜んでいた。
いつも零の帰る時間が不規則で、夕食を一緒に食べる事ができない事が多い。
先に帰ってきている大雅が夕食を作って、零の分も残しておいてくれる事が多いのだが、今日は零が夕食を作ってくれた。
早く帰って来た礼は、簡単なクリームシチューとサラダを作ってくれた。
左手だけでも具材がとても綺麗に切ってある。
とてもクリーミーなシチューに、大雅も大喜びしている。
サラダはシンプルに、新鮮なレタスとポテトサラダ。
「零って料理上手なんだな。どれも美味しいよ」
「あんまり料理は得意ではなくて…」
「そう? 上出来だよ。それに、今日は零がいてくれるから各段と美味しい」
「そう言ってもらえると、嬉しいです。…すみません、いつも遅くて」
「仕事なんだから、仕方ない事だ。謝る事はないよ」
シチューをおかわりする為に、大雅はキッチンへ向かった。
「公務員って、宿直もあるんだな。市役所とかって、決まった時刻に終わるから。宿直なんてないって、思っていたけど」
テーブルに戻ってきた大雅が、そっと零を見て行った。
「あ…あの…」
ん?と、大雅が零を見るとちょっと何かを言いそうな顔をしていた。
「どうかしたのか? 」
「あの…」
食べている手を止めて、零は大雅を見つめた。
いつにない真剣な眼差しで見つめられ、大雅はちょっと驚いた。
「どうした? そんな顔して」
「…私…」
零が言いかけた時。
ピピッ…
大雅の携帯が鳴った。
「もしもし? 」
電話に出た大雅を見て、零は言葉を呑んでしまった。