嘘と愛
「俺に頼まなくても、父さんに言えばそのくらい出してくれるだろう? 」
「お父さんにはもう、めいっぱい借りているから言えないの」
「お前そんなに金使って、まさか誰かに貢いでるのか? 」
「何言っているの? お兄ちゃんじゃあるまいし」
「はぁ? 俺が貢いでいると言うのうか? 」
「だってお兄ちゃん、女の人に貢いでいるでしょう? 私、見たわよこの前駅前で」
「駅前? 」
「駅前のカフェで一緒だったでしょう? 」
「それなら貢いでるとかじゃない」
「へぇーそうなんだ。なんか、嫌な感じな人だったから。私ね、あの女の人が前に他の男の人と一緒にいたのを見たの。ガラの悪い人だったわよ」
大雅は呆れた。
明らかに椿が嘘をついているのが判るからだ。
「俺が誰と付き合おうとお前には関係ない事だ」
「なに言っているの? お兄ちゃんは、将来は社長になる人よ。それなりのお金持ちの人じゃないと困るわ」
「そんな事はどうでもいい。人の事より、自分の事を考えろ」
それだけ言うと大雅は席を立った。
「ここは俺が払っておく。もう少し、お金の使い方を見直すんだぞ」
先に帰ってしまう大雅を、椿は睨むように見ていた。
「何よ…」
ムッとして窓の外を見た椿。
「邪魔ね、あの女…」
フォークを手に取り、じっと先端を見つめた椿はニヤッと怖い笑みを浮かべた。
椿と別れて仕事に戻ってきた大雅は、ちょっとムッとした顔をしていた。
「副社長! 」
ムッとしている大雅に、甲高い声で駆け寄って来る女子社員がいた。
小柄でちまたで言うギャルのような恰好をしていて、長い髪にクルクルと大きなカールを巻いて、フリフリのミニスカートに胸の大きく開いたブラウス姿で男の目を引き付けてくる女子社員。
履いている靴は白いハイヒール。
この女子社員は総務にいる小早川栞(こばやかわ・しおり)25歳。
入社して3年、将来的には社長秘書を狙っている女子社員で、大雅に思いを寄せている一人である。
「副社長お昼終わりました? 」
男を虜にするような可愛い笑顔で話しかけて来る栞に、大雅はちょっと違和感を感じた。
「ああ、終わったけど」
「そうですか。ねぇ、まだ時間ありますから、珈琲一緒に飲みません? 」
手を引っ張って栞はちょっと強引に大雅を連れて行った。
そのままエレベーターに乗って、9階にあるカフェテリアへと向かった大雅と栞。
その様子を遠目で見ていた幸喜がいた。