嘘と愛


「私の財布? どうしてですか? 」
「いや、本田さんが財布を盗られたと言っているから。君の財布を見れば、分かるのではないかと思うんだ」
「別にいいですけど」

 そう言って、栞はチラッと見えている男性用の財布を手に取った。

「これです、どうぞ見て下さい」

 栞から財布を受け取ると、明らかに男性用の財布であることを確信した大雅。
 受け取った財布からは恭平のエネルギーしか感じない。

 大雅は財布の中を見てみた。
 すると中には恭平の免許証が挟んであった。
 他にも保険証やカード類も全て恭平名義のものばかりだった。

「これは間違いなく、君の財布? 」
「はい、私のです」

 嘘をつきとおす栞に呆れながらも、大雅は何も言わずに恭平に歩み寄って行った。

「はいこれ、本田さんのだよね? 」

 恭平は財布を受け取り、中を見た。

「はい、俺のです」
「中身は大丈夫か? 」

 恭平はお札を確認した。

「はい、大丈夫です」

「良かった。どうする? このことは、警察に届けるか? 一応、窃盗未遂にはなるんじゃないか? 」


「ちょっと! どうゆう事ですか? そのお財布は私の物ですよ! 」

 叫んでくる栞を、大雅はちょっと厳しい目で睨んだ。


「君の物だと証明はされない」
「どうしてですか? 」

「本田さんの免許証が入っている。それに、この財布からは本田さんのエネルギーしか感じない。君のエネルギーは、全くなかったよ。それに、あの財布は明らかに男性用の財布だ。女性が好む財布ではないよ」

 何も言い返せなくなり、栞はポカンとなった。

「本田さん、あとはどうするか任せるから。もう行っていいよ」
「はい、有難うございます副社長」

 恭平はそのまま去って行った。

 大雅は栞を見た。
 栞は俯いて何も言えない顔をしている。

「別に、君を責めるつもりはない。何故、こんなことをしたのか。その理由も聞くつもりはないよ」

 栞はゆっくりと顔を上げて大雅を見た。

「ただ、これだけ言っておく」

 何を言われるのかと、栞は息を呑んだ。

「もっと自分を大切にしてほしい。君が、君自身を大切にすることが一番の幸せだと思う」


 それだけ言うと大雅は去って行った。

 残された栞は複雑そうな顔をしていた…。


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