嘘と愛
 食べながら、幸喜と夏樹は仕事の話をしている。



 夏樹はアメリカ社の仕事を今は見ている。

 日本の本社は幸喜に任せているようだ。



 零は黙って食べ続けている。

 そんな零をチラッと見た空。
 
「あら? 零ちゃんって、お魚食べるのとっても上手なのね」

 零の魚の食べ方を見て、空がちょっと驚いて言った。
 
 ふと、空が幸喜を見ると。

 幸喜の食べ方と零の食べ方が同じで驚いた。


「幸喜と同じ食べ方するんだね」

 何気に夏樹が言った。


 言われて幸喜は改めて見ると、零と同じように綺麗な魚の食べ方をしていた。

 そして不思議と、他のおかずも同じような食べ方をしている。
 お箸の持ち方も良く似ていて。


 なんとなく、幸喜はそれを見ると嬉しくなり、目が潤んでいた。

 零はちょっと恥ずかしそうに俯いた。

「あ、そうだ。食後のデザートがあるの」

 機転を利かせて、空が冷蔵庫からデザートを持ってきた。


「採れたてのメロンもらったの、おいしそうでしょう? 」
「わぁ、メロンなんて久しぶりだよ」

 お皿を用意して、幸喜は零にメロンを取ってあげた。

「…すみません…」
「気を使う事はないよ、零ちゃん。ここは…自分の家だと思って、楽にしてていいよ」

 
 幸喜の言葉がとても優しく聞こえて。
 張り詰めていた零の気持ちを緩めてくれる…。

「仕事で気をはっているんだよ。家にいる時くらい、リラックスしていいからね」
「…はい…」

 
 どうして、この人の言葉に、いちいち優しさを感じるのだろう…。
 …ずっと…離れていたのに…
 きっと、私の事なんて忘れているのに…。

(桜の死亡届け、まだ出していないよ…)

 
 話がしたいと声をかけて来た幸喜が、零にそっと言った。

 なんで? そんな事を今更言うのだろう? 
 ちょっと複雑な気持ちのまま、零はメロンを食べていた。

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